■環境への広範な影響

 国際環境NGO「地球の友(Friends of the Earth)」米国支部の海洋船舶プログラム部長マーシー・キーバー(Marcie Keever)氏はAFPに「クルーズ業界による環境への影響は、大気汚染、廃水、下水、油性排出物、食品廃棄物、プラスチックなど広範囲に及んでいる」と語った。

 主に懸念されるのは、硫黄酸化物の大量排出だ。硫黄酸化物は呼吸器系疾患や肺疾患の原因となる上、酸性雨を引き起こし、水生動物種に被害を及ぼす恐れもある。

 NGO「交通と環境(Transport & Environment)」によると、クルーズ船世界最大手カーニバル・コーポレーション(Carnival Corporation)が2017年に運航した船舶から欧州海域に排出された硫黄酸化物の量は、欧州全土の乗用車から排出される硫黄酸化物の量を10倍上回っていた。

 企業らは、排出ガスを削減する努力はしている。来年から導入される新たな産業基準では、全船舶の燃料中の硫黄酸化物の含有量を現在の上限3.5%から0.5%に大幅削減することが義務付けられた。

 さらに、大型クルーズ船が寄港地に与える影響も懸念されている。

 イタリアのベネチア(Venice)で6月、大型クルーズ船が運河で観光船に衝突し、4人が負傷する事故が起きた。地元住民らからは同市への大型クルーズ船の寄港禁止を求める声が上がっている。

 また、クルーズ船から海に排出される廃棄物や大量の電力消費も環境保護運動家の怒りを招いている。

 カーニバル・コーポレーションは6月、海洋へのプラスチックごみ投棄など環境法違反で2000万ドル(約21億円)の罰金を科された。

 一方、企業側は、汚染低減のために必要な措置は講じていると主張している。

 米ロイヤル・カリビアン・インターナショナル(Royal Caribbean International)の環境プログラム部門責任者ニック・ローズ(Nick Rose)氏はAFPの取材に、同社の船舶には硫黄酸化物など汚染物質のほぼすべてを浄化するシステムを装備していると語った。

 ローズ氏は「クルーズ船は以前よりもクリーンになっており、新型船になるほど改良されている」と主張した。(c)AFP/Martin Abbugao