■カジノ王、独裁者、共産主義者

 中米の別の国、ニカラグアに贈られたアポロ11号の石も数奇な運命をたどった。ニカラグアの石は、コスタリカでキリスト教バプテスト派の牧師の手に渡り、そこからさらに米ラスベガス(Las Vegas)のカジノオーナー、ボブ・ストゥパック(Bob Stupak)氏の手に渡った。

 ストゥパック氏はその石を一時期、自身が経営する「ムーンロックカフェ(Moon Rock Cafe)」に飾っていた。ストゥパック氏が亡くなると、担当の弁護士からガットヘインズ氏に連絡があり、石の扱いに困っていると告げられた。

 この時、ガットヘインズ氏は「ニカラグアに返してもらう約束でNASAに渡せばいい」とアドバイスをした。するとその後、実際にその通りになったという。

 ホンジュラスとニカラグアの月の石は、元の贈られた国に戻ることができたが、行方不明になったままの石もまだ数多くある。

 そのうちの一つは、スペインで長期独裁を敷いたフランシスコ・フランコ(Francisco Franco)総統の遺族が持っていると考えられている。このアポロ11号が持ち帰ったとされる石についてガットヘインズ氏は、「フランコ総統の孫の一人がスイスでアポロ11号の月の石を売ろうとして、国際刑事警察機構(インターポール、ICPO)に阻止された」と話す。

 また、ルーマニアに贈られた月の石2個のうちの1個も行方不明のままだ。ガットヘインズ氏は、「ニコラエ・チャウシェスク(Nicolae Ceausescu)元大統領とエレナ(Elena Ceausescu)夫人が1989年のクリスマスに処刑された後、この共産主義体制の独裁者が所有していた財産は売却されてしまっている」と説明した。

 他方で、アイルランドで行方が分からなくなっているアポロ11号の石の所在についても確信があるという。ただ、それが近いうちに取り戻されることはないと指摘している。なぜなら、アイルランドの石は首都ダブリンのダンシンク天文台(Dunsink Observatory)に置かれていたが、1977年に火災が起き、燃え残ったがれきと共に埋め立て地に送られてしまったためだ。

 映像は5月24日に撮影。(c)AFP/ Chris Lefkow