【7月12日 AFP】デンマーク領グリーンランド(Greenland)では、気候変動が生態系だけでなく歴史学にとっても脅威となっており、考古学的遺跡に地球温暖化の悪影響が及んでいるとの研究結果が11日、発表された。

 北極圏全域には考古学的遺跡が18万か所以上存在し、数千年前にさかのぼる遺跡もある。この中には紀元前2500年頃のグリーンランドの最初の定住者の生活を解明する唯一の手掛かりを提供する遺物も含まれている。これらの遺跡はこれまで土壌の特性によって保護されていた。

 英科学誌ネイチャー(Nature)に掲載された論文は「分解率は土壌の温度と湿度に直接左右されるため、霜が降りない期間の気温上昇と降水量の変化が原因で、考古学的遺物の木材や骨、古代のDNAなど有機物の重要要素が分解され、消失する可能性がある」と指摘している。

 デンマーク国立博物館(National Museum of Denmark)のヨルゲン・ホレッセン(Jorgen Hollesen)氏率いる研究チームは2016年から、北極圏に位置するグリーンランドの政庁所在地ヌーク(Nuuk)周辺7か所の遺跡を調査してきた。

 一部の遺跡には、毛髪、羽毛、貝殻、肉の痕跡などの有機的要素に加え、バイキングの入植地の遺構もある。

 研究で使用したさまざまな温暖化シナリオに基づく予測によると、平均気温が最大で2.6度上昇すると「土壌温度の上昇、凍土融解期の延長、有機物層内の微生物活動の活発化」などの可能性がある。

 ホレッセン氏はAFPの取材に「今回の結果は、考古学的遺物に含有される有機炭素(OC)の30~70%が、今後80年以内に消失する可能性があることを示している」と語った。

 これはグリーンランドの考古学的遺物が危機にさらされていることを意味する。

 研究チームは遺跡の過去の調査結果と今回の結果を比較し、有機物の分解がすでに進行している証拠を発見した。

「一部の遺跡では、原形を保っている骨や木片が一つも見つからなかった。これは過去10年以内に分解が進んだことを示唆している」と、ホレッセン氏は指摘した。有機物質の遺物は微生物によって分解されているが、降水量が増加すると微生物の活動が減速する可能性があるという。

 ホレッセン氏は「雨量が増えるのは好都合で、雨量が減るのは良くないと考えられる」とし「有機物層が湿ったままの状態であれば、有機物質を分解する微生物が取り込める酸素量が減少する」と説明した。

 米アラスカ州など他の北極圏地域では最近、本来は一年中凍結した状態にある永久凍土層が気温上昇によって融解し、何百もの古代の遺物が地表に現れている。(c)AFP