【7月10日 AFP】パキスタンの人里離れた谷間の村で、少数民族カラシュ(Kalash)の女性ら数十人が春の到来を祝う踊りに興じている。その様子をカメラに収めようと、男性の一団が躍起になっている。だがカラシュの人々は、国内各地から押し寄せる観光客が、カラシュ固有の伝統文化を脅かしていると警鐘を鳴らしている。

 カラシュはパキスタン北部のいくつかの村に暮らす少数民族で、人口は4000人に満たない。毎年春の訪れを「ジョシ(Joshi)」と呼ばれる祭りで迎える。祭りではいけにえがささげられ、洗礼式や結婚式も行われる。

 祝いが始まると、携帯電話を手にした観光客らが、鮮やかな衣装と頭飾りを身につけたカラシュの女性たちに近づこうと寄って来る。女性たちの華やかないでたちは、保守的なイスラム教の国パキスタンでよく着られている地味な服装と見事な対照をなしている。

「中には動物園に来たみたいに写真を撮る人もいる」。地元ガイドのイクバル・シャー(Iqbal Shah)さんは語る。

 カラシュ人をめぐっては作り話が多く、近年はスマートフォンやソーシャルメディアの普及でこれが悪化している。

■「コミュニティーを中傷」

 動画投稿サイトのユーチューブ(YouTube)には、「夫の目の前で」自らが選んだ相手と「堂々と性行為をする」カラシュ人とうたい、130万回再生された動画がある。また、カラシュの女性を「美しい不信心者」と呼び、「誰でもそこへ行けば、どの子とでも結婚できる」と言い放つ動画もある。

 カラシュ人のジャーナリスト、ルーク・ラフマット(Luke Rehmat)氏は「そんなことが真実であるわけがない」と一蹴する。「人々はこのコミュニティーを意図的に中傷しようとしている。話をでっち上げて……観光客がそんな考えでやって来れば、(それを)実践してみようとするだろう」

 カラシュ人が最も多く住む村ブンブレット(Bumburate)のホテルの支配人によると、宿泊するパキスタン人観光客の約70%が若い男性だという。どこに行けば女性に会えるかを尋ねられることもよくあるという。

 観光を規制するのは至難の業だが、カラシュ人にとっては死活問題だ。観光収入は、このコミュニティーにとってますます重要な収入源となっているのだ。