【7月24日 AFP】彼らは世界最大級の牧畜民で、その数は約3500万人。サハラ(Sahara)砂漠南縁の広大な草原地帯サヘル(Sahel)地域から熱帯雨林地域まで、西アフリカの15か国に散らばって生活している。彼らとは、フラニ(Fulani)人のことだ。牛の群れを連れ、季節の移り変わりとともに遊牧する。

 プル(Peul)人とも呼ばれる彼らは、世界からほとんど注目されることもなく、昔からの生活様式を守って暮らしてきた。しかし、そうした生活は数年前に一変した。ナイジェリアやブルキナファソ、マリ、ニジェールに住む牧畜業者や定住農家とのあつれきが再燃したのだ。イスラム過激派にあおられ暴力は連鎖、死者は数千人に上り、経済的影響は数百億ドル(数兆円)に及んでいる。そうした地域の多くでは秩序が失われ、広範囲にわたって無法地帯と化している。

 衝突が起きているのは、西アフリカに長年存在する「キリスト教とイスラム教の断層線」地域だ。

 しかし、衝突は宗教の領域にはとどまらず、社会全体に決定的に関わる問題も浮き彫りにしている。人口増加と気候変動は土地利用をめぐる争いに油を注ぎ、アフリカ諸国の植民地時代の分割は暴力激化の一端を担っている。

 こうした危機により、突如として、フラニ人と、過酷で時代を超越した彼らの生活様式にも注目が集まった。

 民族としては数千年の歴史を持つにもかかわらず、今日のフラニ人は、社会的な負の烙印(らくいん)や政治的圧力、移行する経済、現代社会の要求からかけ離れていることが多い自分たちの伝統に苦しめられている。

 社会に適応しようともがく多くのフラニ人は、こう言う──何とかして生き延びる以外にない、そうしなければ、自分たちは絶滅の道をたどって行く。(c)AFP