【6月25日 CNS】「私は今も頭がしっかりしている。これからも教壇に立ち、自分が絵画で習得したものを伝えていきたい」。花鳥画を専門とする著名画家で100歳を間近にした易図境(Yi Tujing)氏は、授業で弟子や友人を指導しながら、湖南省懐化学院の学生らに語りかけた。

 6月17日、湖南省懐化学院で行われたイベント「図境の100年」では、易氏と弟子らの共同絵画展や、易氏の実地授業などが行われた。98歳という高齢にもかかわらず、自ら筆をとり、学生に指導をする易氏。芸術に取り組む姿と情熱を伝え、良き模範を示そうとしている。

 1921年に湖南省(Hunan)黔陽県(現洪江市)で生まれた易氏は、中国芸術家協会の会員、懐化学院の教授を務める。80年以上もの間、焦墨を用いた濃厚な色彩で重厚かつ素朴な筆致による花鳥画を描き、中国画において先駆的役割を果たしてきた。その取り組みは黄永玉(Huang Yongyu)、湯文選(Tang Wenxuan)、李世南(Li Shinan)、陳白一(Cheng Baiyi)、鍾增亜各氏ら現代の名家に高く評価されている。

 左手で筆を持ち、紙の上で筆をなぎ払い、強くこすりつけ、自由自在に描く。絵画を自分の命と同じように大切にしている易氏は、ほぼ毎日絵を1枚描いている。この年齢になっても新たにつかんだ絵画の心得を学生に伝え、学生たちの手本となるよう努めている。

 易氏はなぜ、左手で絵を描くのか。実は95歳の時に突然の脳出血に襲われたためだ。治療を受けたが、右手に力が入らなくなってしまった。それでも、筆を持つことさえ困難な状態から病室のベッドでたゆまぬ鍛錬を続け、左手で描けるようになったという。

 「毎日少しでも描くことができれば、一日中幸せを感じる。そうでなければ心にぽっかり穴が開いてしまうようだ」。易氏は100歳を間近にした今も芸術的革新を追求している。右手のように巧みに使えない分、新たな画風を探求し、以前の作品と違う素朴な味を生み出している。

「桃李不言,下自成蹊」(桃やスモモの木が何も言わなくとても、人々は実を取りに集まってくる=誠実な人の下には、自然と多くの人が慕って集まってくる)ということわざのように、易氏は教育者として弟子をわが子のように大事に指導し、弟子の中から有名な画家が数多く育った。易氏は定年後も授業を続け、93歳の時も懐化学院で教えていた。常に教師としての初心を忘れず、生徒を育てる使命を抱いている。

 2009年には、懐化学院に「易図境美術館」が開設された。以来、易氏は自分が各年代に描いてきた190枚の絵画と20本の画磁器花瓶を寄贈してきた。そのコレクションが美術教師や生徒らの学習、研究につながればと願っている。

「私は一介の教師です」。易氏は常に、自分が「一教師」であることを忘れず、この職業に深い感情を持っていると述べる。中学生時代の作文に「画家になりたい」と書き、先生から「ぜひ人々を目覚めさせる画家になってほしい」と言葉を贈られたことを、今もはっきり覚えている。

 定年後に故郷に戻った易氏は、今もふるさとの洪江市洗馬郷の発展のために力を入れ、地元の人々に夢を追う勇気を与え、ともに故郷の未来を築こうとしている。(c)CNS/JCM/AFPBB News