【6月22日 MEE】英国で、テロが発生した場合に備え、一般市民から自然発生的に生まれたかのように見せかけるソーシャルメディア活動を事前に用意する政府機関が、中東・北アフリカ諸国でも類似のプログラムを立ち上げたことが、ミドル・イースト・アイ(MEE)の取材により明らかになった。

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 MEEの調べによると、英国の有事対策当局は、サウジアラビア、カタール、アラブ首長国連邦(UAE)、バーレーンなど14か国の政府と密に連携を取っている。同当局は、特にサウジアラビアと密接な関係を築いており、同国で「国家リスク部隊」と呼ばれる組織の設立も支援した。

 英国内で使用される有事対応計画を準備する英政府の組織、民間緊急事態事務局(CCS)は近年、テロに備えて、ハッシュタグのテストや、インスタグラム(Instagram)用の画像選定、「即席」を装った街頭ポスターのデザインといった事前準備を行ってきた。これらはすべて、テロ攻撃に対する国民のとっさの反応を装うものだ。

■「統制された自発行動」

 有事対策の担当者が「統制された自発行動」と呼ぶこの作戦ではまた、政治家の声明、犠牲者追悼集会、異宗教間イベントも、前もって慎重に準備される。複数の関係者によると、作戦の目的は事件に対する世論の形成で、事件に暴力や怒りで応じるのではなく、人々が被害者への共感や他者との連帯感に意識を向けるよう促すことにある。

 MEEが確認した同作戦の実施例としては、2017年6月にロンドン橋(London Bridge)で起き8人が殺害された襲撃事件で、事前に制作されていたポスターの掲示や、国内各地から集まったイマーム(イスラム教指導者)による集会が行われたことがある。また、同月にロンドン北部のモスク(イスラム礼拝所)そばで男がワゴン車で意図的に人だかりに突っ込み、1人が死亡、10人が負傷した事件の直後には、ツイッター(Twitter)、フェイスブック(Facebook)、主要メディアで活動が展開された。

■アラビア語の特注コース

 英イングランド北部ヨークシャー(Yorkshire)にあるCCSの施設「緊急計画カレッジ(Emergency Planning College)」では、有事対策担当者らが、「ソーシャルネットワークが持つ並はずれた影響範囲を活用し、より効果的な反応を実現する」方法や、「学校で児童・生徒に対し『立ち直りのメッセージ』を届ける」方法を学んでいる。

 同施設はこれまで、30か国の有事対策職員を訓練してきており、うち12か国は中東・北アフリカ諸国だった。同施設はまた、「UAE、カタール、バーレーン、サウジアラビア向けに、アラビア語の特注コースを開発し、国内外で提供してきた」という。これまでに、サウジアラビアの当局者350人以上、UAEの当局者1500人以上がコースを受講した。

By Ian Cobain

(c)Middle East Eye 2019/AFPBB News