【6月20日 MEE】英国政府が、テロ発生に備えた対策として、事件後に国民から自然に生まれた反応のように見せかけることを目的としたソーシャルメディア活動を事前に準備していることが、ミドル・イースト・アイ(MEE)の調べにより分かった。

 有事対策当局が「統制された自発行動」と呼ぶこの作戦では、来たる襲撃事件に備え、ハッシュタグが慎重にテストされ、インスタグラム(Instagram)用の画像が選定され、「即席」を装った街頭ポスターが印刷されるほか、政治家の声明、犠牲者追悼集会、異宗教間イベントの調整も事前になされている。

 この作戦は、2017年のロンドン橋(London Bridge)襲撃事件やモスク(イスラム礼拝所)襲撃事件を含む近年のテロ事件すべてで展開されてきた。

 事件が発生すると、数時間以内に「アイ・ハート〇」(〇には事件発生場所の名前)と書かれたポスターの作成・配布や、犯行現場で人々に花を手渡す活動など、一見すると人々が自発的に愛とサポートを示しているかのような光景が展開される。複数の関係者によると、作戦の目的は事件に対する世論の形成で、事件に暴力や怒りで応じるのではなく、人々が被害者への共感や他者との連帯感に意識を向けるよう促すことにある。

 作戦で行われる活動の多くは、2012年ロンドン五輪で襲撃事件が起きた場合に国民の怒りの矛先を誘導すべく考案された大規模な計画に基づいているとされる。だが中には、五輪の前年に考案されたものもある。当時、中東・北アフリカ地域で起きていた民主化運動「アラブの春(Arab Spring)」ではデモ参加者同士のコミュニケーション手段としてソーシャルメディアが活用されていた。一方の英国では、国内各地で暴動が発生していた。

 当時の有事対策立案に関わったある高官によると、国内での暴動発生を受け英政府は「完全にふるえあがった」といい、特に当時内相だったテリーザ・メイ(Theresa May)首相は激しく動揺したという。

 五輪を前に練られた対策は、大量の死傷者を出す襲撃事件の発生を受け国民の間に生まれるであろう「ダイアナ元皇太子妃(Princess Diana)的な悲しみを抑える」ことを目的としていた。これは、1997年にダイアナ元皇太子妃が交通事故で亡くなった際に国民が悲しみに包まれたことにちなんだ表現だ。同高官は、こうした対策は「マインドコントロール」の試みだと率直に語った。

 ロンドン五輪でテロは発生しなかったものの、この作戦は以降、英国内で襲撃事件が起こるたびに、形を変えて展開されてきたとされる。英国のあるベテラン有事対策担当者は「世論の反応は、当然ながら多くが自発的なものだが、形成されているものも多くある。(英国)政府が欲しているのは自発行動ではなく、統制された自発行動だ」と語る。