■セックスに見いだす表現の自由

 旧ソ連時代には経口避妊薬やコンドームが手に入らなかったため、避妊ではなく中絶が行われることが多かった。その結果、1990年代初頭には、同国の中絶件数は世界最多水準に達した。

 1991年にソ連が崩壊すると、官能的な映画やビデオから、きわどい写真を掲載した雑誌や大衆紙の広告に至るまで、性産業が一気に活気づいた。

 だが当初の「関心の高さが生んだ熱狂的なブーム」が過ぎると、突然、人々は食傷気味になり、恐れや拒否感を抱いて背を向けてしまったと、セックスコーチのエレーナ・リドキナ(Yelena Rydkina)さんは語る。

 リドキナさんは、米サンフランシスコで受講したセックスコーチ養成講座から着想を得て、モスクワで「セックスについて普通に話ができる」講座を開いた。だが「ここ10年間、政治は性に対してオープンな姿勢から遠ざかっており、昔ながらの家族観を広めている」と話す。

 一方、ロシア科学アカデミー(Russian Academy of Sciences)のドミトリー・ロゴージン(Dmitry Rogozin)教授(社会学)は、性に関するオープンな政治的議論がないからこそ、人々は今、セックスについて語ることに魅力を感じていると語る。

 ロシア当局はメディアやインターネットの検閲を強化し、野党や反政府団体に関連するコンテンツはブロックされることも多いが、そうした中、ロシア人はセックスについて語ることに表現の自由を見いだしているとロゴージン氏は指摘する。

「セックスは、危険な政治活動を回避する手段とみなされている」とロゴージン氏は続ける。「人々は、政治よりもセックスについて話したがっている」

 映像は、モスクワで開催されたアダルトグッズのポップアップマーケット。2月10日撮影。 (c)AFP/Maria PANINA