【記者コラム】北極圏のクレージーサーファーたち
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【5月16日 AFP】スカンディナビア(Scandinavia)、とりわけその最北で暮らす人々特有の北欧精神というものがある。ばかげた考えほど実現させようと頑張る──氷のサーフボードは、その好例と言えるだろう。

ノルウェーのウンスタッド(Unstad)辺りでサーフィンをするのは、ちょっと特殊な人たちだ。どっぷり北極圏に含まれる場所で真冬にサーフィンだ。気温は氷点下10度(体感気温は氷点下25度)に達することもある。サーフィンと寒さをこよなく愛する私は、5年前から彼らの写真を撮影しているのだが、今年は一風変わった試みが行われていた。

ウンスタッドやロフォーテン諸島(Lofoten Island)をたまり場にしている人たちの間で、氷でサーフボードを作るアイデアが持ち上がった。試さない手はない。これまで誰もやったことがないのだから。そこは1年のうち10か月が氷に覆われている場所。その氷を使ってボードを作り、どんな感じか見てみるのも悪くない。

彼らはまた、北欧人のエコロジー精神を最大限に発揮したがっていた。素晴らしい楽しみ方に思えたし、一種の詩的精神もあった。サーフボードは解け、水に帰す──。「灰は灰に、ちりはちりに」という弔いの言葉があるが、この場合は「水は水に」だ。だがそこに死の意味が込められているわけではない。

こうしてサーファー6人、その友人4人の総勢10人は、作業に取り掛かった。まず凍った湖から氷の塊を切り出してみる。だがうまく行かない。そこでプラスチックと木を使って型を作り、その中に淡水を流し込んだ(凍った淡水は凍った海水よりもずっと強い)。それに滑り止めとして海草を少しと、遊び心で他にもいくつかのものを入れた。

水産加工工場の零下25度の冷凍室に2日間放置し、いよいよ海へ。重さ70キロのサーフボードを海まで引きずって行き、4日間かけて乗り心地を試した。


そして、いくつかの結論に達した。

水温約3度の海では、サーフボードは30分ほどで完全に解けてしまった。

30分のうち、サーフボードがサーフィンに適した形をしていたのはわずか5分ほどだった。その間、ボードはしっかり波に乗っていた。(サーフィンをする際には)波の勢いが強くなければならない。重要なのは大きさではなく強さだ。また十分なスピードを出すには、サーファーが1人でパドリングするだけでは不十分で、男性数人が海中でサーフボードを押さなければならない。この辺の波は風波なので引力によって発生する波ほど勢いがない上、サーフボードの大きさと重さが通常とは違うからだ。

このボードを使ってサーフィンをするのは、通常のものを使う時に比べてはるかに危険だ。もしボードから落ちて重さ60~70キロの氷の塊に頭をぶつければ、けがをするかもしれない。

挑戦と失敗を4日間繰り返した後に出た結論は、これはいけるということ。必要な改良を行ったら、彼らはまた挑戦するだろう。成功するまでは何度でも(仲間の手を少し借りればきっとそうなるはずだ)。
そして私もぜひ戻って来たい。その瞬間に立ち会うために。

それが、クレージーな北欧人のあるべき姿だからだ。挑戦し、存分に楽しむだろう。
このコラムは、AFPパリ本社の写真編集部部長オリビエ・モラン(Olivier Morin)が、ヤナ・ドゥルギ(Yana Dlugy)記者とともに執筆し、2019年4月2日に配信された英文記事を日本語に翻訳したものです。
