■米大使館移転の背景

 ほとんど解決不可能にみえるイスラエルとパレスチナの紛争は2014年以降、実際の外交交渉がまったく存在していない。

 イスラム原理主義組織ハマス(Hamas)は、イスラエルの存在自体を認めることを拒否しており、2008年以降イスラエルと3回、武力衝突している。

 イスラエルはガザ封鎖を継続し、パレスチナ自治区ヨルダン川西岸(West Bank)と東エルサレムを占領し、入植地を拡大させている。

 2018年3月からガザ周辺で起こっている衝突では、300人近いパレスチナ人と6人のイスラエル人が殺害されている。

■米大使館移転の影響

 エルサレムへの米大使館移転から2日後、中米グアテマラがこれに続いた。さらに南米パラグアイも追随したが、4か月もたたないうちに撤回した。他にもエルサレムへ大使館を移転する意向を示した国はあるが、実際に移転した国はまだいない。

 だが、イスラエル外務省報道官のエマニュエル・ナフション(Emmanuel Nahshon)氏は楽観的だ。たとえ大使館がなくとも、外国の指導者や使節団による「これまでに見たことがないほど」活発な訪問がみられると主張する。

 また、懸念されていた米大使館のエルサレム移転に伴う混乱は起きていないと言う。ナフション氏は外交的な影響を否定し「いずれにせよ、もう何年も平和プロセスは動いていない」と述べた。

 一方、パレスチナ自治政府のマフムード・アッバス(Mahmud Abbas)議長の顧問を務めるアハメド・ムジュラニ(Ahmed Majdalani)氏は、パレスチナと米国の関係は「最悪の状況」だと話す。米大使館のエルサレム移転は「大きな影響」を与えており、トランプ政権の姿勢はこの1年で「不公平な仲介役からイスラエルの占領を擁護する者」に変化したと指摘する。

■そして、現在

 パレスチナ自治区指導部は2017年12月以降、米政府との公式な接触を断っている。また、トランプ氏が長らく言い立て、同氏の娘婿で大統領上級顧問のジャレッド・クシュナー(Jared Kushner)氏が手掛ける「最終的」和平案作成の動きを拒否している。

 シンクタンク、欧州外交評議会(European Council for Foreign Relations)のヒュー・ロバット(Hugh Lovatt)氏は、米国は「おそらく内政上または利益上の観点から必要なこととして」大使館を移転したのだろうが、「米国の和平案にマイナスの影響を与えてしまった」と語る。

「これにより湾岸諸国が出てきて支援することが、より難しくなった」「なぜなら彼らにとって、パレスチナ問題に残された本質的に越えてはいけない一線が、エルサレムだからだ」

 米国務省は今月、エルサレムへの大使館移転は単に「エルサレムがイスラエルの首都だという現実」を認めただけだと再び強調した。そして、間もなく発表する和平案は「公平で、現実的で、実行可能で、全員に明るい未来をもたらす」ものになるだろうと述べた。(c)AFP/Laurent Lozano