■「共同体精神」

 ベトナム国内に約100万人いるモンの人たちは過去10年間の経済成長から大きく取り残されており、その60%以上は貧困ラインを下回る生活だ。ベトナム戦争(Vietnam War)中に米中央情報局(CIA)が反共のラオスのモンの人たちを雇い入れたこともあり、ベトナムでモンと中央政府の関係は良好とはいえない状態が長く続いてきた。

 人類学者のゴ・タム(Ngo Tam)氏は2016年の著書「The New Way: Protestantism and the Hmong in Vietnam」のなかで、ベトナムの少数民族の発展プログラムにおいて、モンは他のどの少数民族よりも置き去りにされていると指摘した。

 ハザン省当局は、モンの人たちを過酷な貧困から脱却させる最良の方法として観光振興を進めている。同省は基本計画の中で、2030年までにこの地域を一大観光地にしたいという目標を掲げ、当局はすでに一連の「伝統文化村」を開設している。地元のモンの人たちは、麻の民族衣装を着て伝統的な家を建てることを奨励されている。そして数日間にわたって酒盛りが続くモンの最も神聖な儀式である葬儀や結婚式を短縮するよう要請されている。

 だが少数民族は、必ずしもベトナムの観光ブームの恩恵を受けているわけではない。ベトナム北部の観光地サパ(Sapa)の住民は、多数派民族キン(Kinh)のホテル所有者が大きな収益を得る一方、少数民族の女性や子どもたちは中国製生地や偽物の銀製品を行商していると不満をもらす。

 バオさんがモンの御殿の所有権を回復すれば、自らの歴史を復活させ、さらに地元の観光収入から恩恵を受ける小さな一歩になるかもしれない。御殿の奪還で、置き去りにされ権利を奪われたモンの人々が、魂の故郷を取り戻せることをバオさんは希望している。(c)AFP/Jenny VAUGHAN / Tran Thi Minh Ha