【5月4日 AFP】オーストラリア・タスマニア(Tasmania)州グリム岬(Cape Grim)にある政府機関「グリム岬大気基準観測所(Cape Grim Baseline Air Pollution Station)」は1976年以来、地球の基準となる空気の観測を行っている。

 同観測所の責任者サム・クリーランド(Sam Cleland)氏はAFPの取材に「われわれの仕事は基本的には、空気がどれほど汚染されているかを測定することだ」と語った。

 観測所は人里離れたグリム岬の崖の上に立っている。西側で最も近い大陸はアルゼンチンで、南側には南極が広がっている。この孤立した立地が、排ガスや工場ばい煙の影響を受けない「世界で最もきれいな空気」と名付けられた空気の採取に最適だという。

 クリーランド氏の観測チームは、南西から風が吹いてくると試料となる空気を採取する。採取器具は非常に繊細なため、観測値に誤差が生じないように、車で1時間離れた一番近い町から来る配達トラックの走行はすべて記録される。

■「きれいな空気」が売り

 グリム岬周辺の住民は、手付かずとも言えるこの自然環境を利用している。

 地元の牛肉は大気の質が科学的に実証されているということを前面に出して販売している。また、風力発電も増え、観光も拡大している。

 ケープグリム・ウオーターカンパニー(Cape Grim Water Company)のマイク・バックビー(Mike Buckby)氏は、「地球で最も汚れがない空から」降ってきた雨水を販売している。

 バックビー氏は「私たちは南極海に降った雨を利用している」と話し、同社の水は甘みが特徴で、海に由来する微量のナトリウムが含まれていると説明する。観測所が空気を測定していることで、競争の激しい市場でも製品を差別化できていると強調している。

「そう、夢を売っている」とバックビー氏は言う。「だが、ここが世界で一番空気がきれいだという43年にわたるデータがある」

■産業革命直後の水準

 だが、グリム岬も大気汚染と無縁ではない。メルボルンやシドニーなど北方から風が吹く日には、工場から排出された化学物質の痕跡が探知されている。さらに、遠く中国で発生したオゾン層を破壊するガスの増加も見られる。

 南西から吹く最も清浄な空気も急速に変化している。

「すべての主な温室効果ガス、特に二酸化炭素濃度は、過去2000年にわたり非常に安定していた」とクリーランド氏は指摘する。

 氷床コアは、過去100万年の大半において大気中の二酸化炭素濃度が約275ppmだったことを示している。「われわれが1976年にこの地で二酸化炭素レベルの測定を始めた時にはすでに330ppmに上昇しており、その後さらに上昇し、今は405ppm前後にまでなっている」とクリーランド氏は話す。

 グリム岬の現在の二酸化炭素濃度は、産業革命が始まった頃のいくつかの都市の水準に近いという。クリーランド氏は「現在の大気の状態は、おそらく地球の歴史が始まって以来のものだ」と警告している。(c)AFP/Andrew BEATTY