【4月26日 AFP】陸上男子長距離のモハメド・ファラー(Mohammed Farah、英国)と、エチオピアの伝説的長距離ランナーとして知られるハイレ・ゲブレセラシェ(Haile Gebrselassie)氏が、同氏の持つホテルで発生したとされる盗難事件と暴行事件をめぐって対立を激化させている。

 28日に開催されるロンドン・マラソン(London Marathon 2019)で、マラソンの世界記録保持者で前回覇者のエリウド・キプチョゲ(Eliud Kipchoge、ケニア)と争うファラーは、そのトレーニングのために3月下旬にエチオピアの首都アディスアベバ近郊にあるゲブレセラシェ氏のホテルに宿泊していた。

 ファラーはレースを控えて行われた記者会見で、ホテルの部屋で盗難被害に遭った際に、同氏が盗難品を取り戻すための努力を何もしてくれなかったと訴えた。一方、現役時代に五輪で2度の金メダルに輝いたゲブレセラシェ氏は同日、英紙ガーディアン(Guardian)に対して、ファラーが大幅に割り引かれた宿泊代金を支払わなかったことに加え、同選手がジムで一組の夫婦を殴ったり蹴ったりする姿が大勢に目撃されていたと反論した。

 ゲブレセラシェ氏は、夫である男性がファラーのエクササイズをまねしていたと付け加えた上で、「ファラーは彼に、『なぜ私のまねをしている?』と言った」「その男性は否定し、ただ自分のトレーニングをしていただけだと話した」「するとファラーはその場で夫婦を殴り、蹴っていた。特に男性の方だ。目撃者は大勢いた」と語った。

 ファラー陣営は疑惑について、「事件があったのは数週間も前のことであり、ハイレ氏はその場にいなかった。事件はモー(ファラー)が起こしたものでは絶対にない」と否定すると、「彼は即座に警察の上層部に苦情を申し立てた」「モーに対してこれ以上の脅迫行為があれば、警察に訴えることになると関係者に警告した」ことを明かした。

 これに対してゲブレセラシェ氏側は、ファラーが起こしたとされる暴行事件が取り下げられたのは、自分が個人的に警察に介入したおかげだという立場を維持している。

 しかしファラーは24日に、自身が36歳の誕生日を迎えた3月23日に、ホテルの部屋で現金2500ポンド(約36万円)と妻のタニア(Tania)さんからプレゼントされた腕時計が盗まれたと訴えていた。

 ロンドン・マラソンに向けた準備に専念していたファラーはまた、ゲブレセラシェ氏が話している暴行事件についても強く否定しており、ホテル関係者が「スタッフがルームキーを使って部屋から金品を盗んだことから、気をそらそうとしていた」と訴えた。

「誰かが受付からキーを取り出し、部屋に入り現金と妻から贈られた素晴らしい腕時計、そして携帯電話2台を盗んだ」「腕時計は大切なもので、代えが利かない」

 昨年大会では3位に終わりながらも、同10月のシカゴ・マラソン(Bank of America Chicago Marathon 2018)では欧州記録を更新して優勝したファラーは、協力要請に応じてもらえずに忍耐が尽きた際に、ゲブレセラシェ氏に送ったメールの内容も公開した。

「盗まれた現金や、特に私の腕時計に関して探す努力をしてくれなかったことに失望していることをお知らせしたい」「あなたには、何度も電話で連絡を取ろうとした」「英ロンドンで行われる記者会見で話す内容や、それがあなたの人格やビジネスに与える影響に関して私に責任はない。ごきげんよう」

 ゲブレセラシェ氏はメールの内容について、まるで「脅迫や非難行為だ」と反論すると、ホテルにおいてファラーとその陣営に対する「恥ずべき行為があったという複数の報告」があったことを付け加えた。

 同氏は盗難事件に関しても軽い扱いをしたことは否定しており、捜査が行われていた3週間、ホテルのスタッフ5人が身柄を拘束されていたことを明かした上で、「彼らは潔白が判明して釈放された」「警察は全力で捜査していたが、通報があった盗難事件の痕跡は発見されなかった」と述べた。

 陸上界の名ランナー2人が対立している今回の問題はエスカレートの一途をたどっており、法廷に持ち込まれる様相を呈している。ゲブレセラシェ氏はガーディアン紙に対して、「彼(ファラー)はエチオピアで弁護士を雇った」「こちらにも弁護士がついている。これから裁判が始まり、私たちのどちらか一方が勝つことを目撃することになるだろう」と語った。(c)AFP