【4月12日 AFP】旧ユーゴスラビアのボスニア・ヘルツェゴビナで、息子の死の真相究明を求め、セルビア系の国家内国家「セルビア人共和国」(スルプスカ共和国)の当局に抗議を続けてきた男性が11日、オーストリアへの政治亡命を申請したことを明らかにした。オーストリアのメディアが報じた。男性に共鳴するデモ参加者が増え、セルビア系指導者への抗議運動に発展していた。

 ダボル・ドラギチェビッチ(Davor Dragicevic)さん(49)は、昨年3月に息子のダビド(David Dragicevic)さんが死亡した状況について当局の説明を求め、セルビア人共和国の中心都市バニャルカ(Banja Luka)で9か月間にわたって抗議を続けてきた。

 ドラギチェビッチさんと元妻は、ダビドさんがセルビア人共和国の当局に「殺された」と非難している。当局は、疑惑を否定。警察は事故死と発表したが、その後に検察が他殺だったと認定したため、2014年以降国内では目にすることのなかった大規模な抗議のうねりが起きた。

「ダビドに正義を」と呼び掛ける運動は人々の支持を集め、参加者は日々増加。昨年10月の総選挙で勝利し、イスラム系、クロアチア系、セルビア系の3民族代表が交代で国家元首を務める幹部会の議長(大統領)に就任したセルビア系のミロラド・ドディック(Milorad Dodik)氏の統治に対する抗議デモに発展した。

 しかし、ドラギチェビッチさんは11日、オーストリアのニュースサイト「バルカン・ストーリーズ(Balkan Stories)」に、「亡命を求めている」と明かした。ボスニアでは命の危険を感じると述べている。また、今後はオーストリアから「正義のための闘い」を継続し、セルビア人共和国の「全体主義体制」に抗議し続けたいと語っている。

 ドラギチェビッチさんは昨年12月末、政治関係者の「安全を脅かした」として検察に一時身柄を拘束され、その後オーストリアに出国していた。

 ボスニアは1992~95年の内戦後、セルビア人共和国と、イスラム教徒とクロアチア人で構成する「ボスニア・ヘルツェゴビナ連邦」の2つの国家内国家に分かれている。ドラギチェビッチさんはセルビア系だが、民族の違いを超えて正義のため「共闘」するようボスニアの人々に呼び掛けており、イスラム系男性の不審死の真相究明を求める運動と連携している。(c)AFP