■二重の困難

 ヒマラヤ登山に関する記録をまとめた「ヒマラヤン・データベース(Himalayan Database)」によると、登頂を達成したシェルパ族は、男性では約4000人いるが、女性はわずか34人だ。

 女性登山家のラクパ・シェルパ(Lhakpa Sherpa)さん(44)は、エベレストを9回制覇したことで知られているが、今なお極めて例外的な存在だ。

 シェルパ社会は、ネパールの他の多くの民族集団と同様に保守的で家父長的だ。男が山に出ている間、妻や娘は家の中の火を絶やさないことを求められている。

 だが、ヒマラヤン・データベースによると、エベレストでの死者の約3分の1は、ガイド役を務めるシェルパだ。「男性の働き手を失った女性は苦悩し、困惑する」と語るのは、山岳労働者の遺族を支援する非営利団体、ジュニパー基金(Juniper Fund)のツェリン・ドルカー・シェルパ(Tsering Dolker Sherpa)氏だ。「彼女たちは大抵、夫に依存し、教育を受けていない。なのに突然、家族を養う責任に直面するのだ」

 悲嘆と苦悩に加え、困難な事態の立て直しを迫られた女性たちを二重に襲うのは、夫を亡くした妻に対する否定的な態度だ。夫を亡くした妻は悪運とみなされ、締め出される共同体もある。

 プロガイドとして活動する女性、ダワ・ヤンズム・シェルパ(Dawa Yangzum Sherpa)さんは「フルディキとニマ・ドマはこの業界に足を踏み入れたことで、二重の困難と闘っている。女性として、そして夫を亡くした妻としての困難だ」と語る。

 フルディキさんとニマ・ドマさんは、差別に耐えてきた他の似た境遇の女性シェルパらに会ったことで、エベレスト登頂を成し遂げる決意が強くなったと語った。

「私たちはエベレストに登ることで、夫を亡くした女性や独身の女性に伝えたいメッセージがある。私たちは他の誰にも劣っていない、何だって成し遂げることができる、ということです」とニマ・ドマさんは語った。(c)AFP/Paavan MATHEMA