【4月5日 AFP】水中と陸上の両方で活動していた4本足を持つクジラの祖先の化石を、古生物学者チームがペルーで発見した。このクジラ類の化石は、哺乳類クジラの陸から海への移行期に新たな光を投げかける発見だ。

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 クジラやイルカの祖先は約5000万年前、現在のインドとパキスタンに相当する地域で地上を歩き回っていた。

 これまでの研究では、北米でこのクジラ類の4120万年前の部分的な化石が発見されており、その時代までにクジラ類が自分の体重を支えて地上を歩行する能力を失っていたことが示唆されていた。

 4日の米科学誌カレント・バイオロジー(Current Biology)に掲載された論文によると、今回ペルーの太平洋岸プラヤメディアルナ(Playa Media Luna)の海岸線から約1キロ内陸で発見されたクジラ類(学名:Peregocetus pacificus)の化石標本は4260万年前のもので、保存状態も良く、クジラ類の進化に関する新たな情報を提供しているという。

 研究チームは発掘調査で、砂漠土に埋もれた下顎骨、歯、脊椎、肋骨、前後肢の一部、長い指骨などを発見した。研究チームは骨格に基づき、体長約4メートルのこのクジラ類の動物が歩行と遊泳の両方を行うことができたと主張している。また、このクジラの祖先の指には水かきがあった可能性が高い。

 論文の筆頭執筆者で、ベルギー王立自然科学博物館(Royal Belgian Institute of Natural Sciences)のオリビエ・ランベール(Olivier Lambert)氏はAFPの取材に「脊椎最下部の尾椎(びつい)の一部は、カワウソなど現代の水陸両生哺乳類との類似性を示していた」と語る。

「従ってこれは泳ぐために、尾の使い方を発達させ始めた動物だったと考えられる。この点により、インドやパキスタンのより古い時代のクジラ類とは区別される」

 4本足を持つクジラ類の断片的な化石はエジプト、ナイジェリア、トーゴ、セネガル、西サハラなどで見つかっていたが、遊泳が可能だったかどうかについては化石が断片的すぎるため、決定的な結論を導き出すことはできなかった。

「これは4本足を持つクジラ類の化石としては、インドとパキスタン以外でこれまでに発見された中で最も完全に近い標本だ」と、ランベール氏は述べた。

 今回のペルーのクジラがカワウソのように泳ぐことができたとすれば、アフリカ西岸から南米まで大西洋を横断した可能性があると、研究チームは仮説を立てている。大陸移動の中で、大陸間の距離は現在の半分の約1300キロだった上、当時の海流が東から西へ流れていたことも、海を渡る移動を容易にしたと考えられる。

 今回の研究結果は、クジラがグリーンランドを通って北米に到達したとする別の仮説の妥当性を弱めるものと考えられる。

 ペルー南岸沖のピスコ盆地(Pisco Basin)は保存に好都合な条件を備えており、多数の化石がある可能性が高い。「今後、少なくとも50年間は仕事がある」と、古生物学者のランベール氏は話した。(c)AFP