■チベット初のプロ選手?

 17歳の華旦才譲(Huadan Cairang)は、年に一度しか家族に会えない。何しろ彼の出身地は南京のはるか西、外部の人間が簡単には足を踏み入れることができないチベットの高地だ。センターでは「ロジャー」の名で呼ばれる華旦は、もともとサッカーのGKをやっていたが、がっしりした体格はサッカーよりも野球に向いていた。今は主に投手としてプレーし、野球歴は9年を数えるが、それまでは「野球のことは何一つ知らなかった」という。

 才能を見いだしたのは韓国人のコーチで、「チベットへ旅行に来たコーチが、みんな力が強いのを見て、野球をやらせたらどうかと思った」のだそうだ。華旦も、センターの仲間たちも、MLB入りが狭き門なのは分かっていて、行き先が中国のチームに落ち着きそうな選手もいる。

 ただ、彼は別の目標を持っている。華旦は「チベットの人の多くは野球を知りません。だから僕は、もっとたくさんのチベット人に野球を好きになってもらいたいんです」と話している。

 MLBで、アジア野球発展の責任者を務めるリック・デル(Rick Dell)氏は、中国野球の成長という壮大な野望を口にする。三つのセンターを柱として、米国や中国などの大学に若者たちを送り出し、「青少年の育成を行う」ことが一番の目的だそうだ。

 一方でデル氏は、画期的なスターが登場する瞬間、つまり野球界の姚明(Yao Ming、ヤオ・ミン、元米プロバスケットボール<NBA>のスター)と呼べるような選手が見つかるのも「もはや時間の問題」だと考えている。

「われわれは各地を飛び回っています」「大都市やポピュラーな場所だけでなく、どこへでも向かいます。石という石をひっくり返し、特別な子どもが隠れていないかを探るためにね」 (c)AFP/Peter STEBBINGS