■次はイドリブ?

 反体制デモに対する残虐な弾圧に端を発した8年間の内戦で、シリア政府軍は国土の3分の2近くを支配下に置いた。だが、いまだ制圧できない主要地域が2か所ある。北東部のクルド自治区一帯と、かつて国際テロ組織アルカイダ(Al-Qaeda)の傘下にあった「タハリール・アルシャーム機構(HTS)」(旧アルヌスラ戦線<Al-Nusra Front>)が支配する北西部イドリブ(Idlib)県だ。

 イドリブは現在、アサド政権を支援するロシアと、反体制派を支援するトルコとの間で昨年9月に交わされた脆弱(ぜいじゃく)な合意によって守られている。合意により約300万人が暮らすイドリブに対する政府軍の総攻撃を回避するための非武装地帯が設定されたが、ここ数週間、イドリブへの攻撃が激しさを増している。

 在英NGO「シリア人権監視団(Syrian Observatory for Human Rights)」によると、政府軍の空爆や砲撃によって多数の民間人が死亡し、数万人が避難を余儀なくされている。

 それでも当面、合意は保持されると、独立系シンクタンク「国際危機グループ(The International Crisis GroupICG)」のアナリスト、サム・ヘラー(Sam Heller)氏は語る。政府軍とロシアによるイドリブ攻撃は、総攻撃の前兆というよりも戦術的な圧力だと同氏はみている。

 一方、シリア専門家のファブリス・バランシュ(Fabrice Balanche)氏は、アサド政権はイドリブではなく、米軍撤退後のクルド自治区の支配権を取り戻そうとしていると指摘する。「イドリブは待てる。いずれにせよ、誰もHTSを守ろうとはしないだろう」 (c)AFP/Alice Hackman