【3月24日 Xinhua News】定年を迎えたばかりの日本人技術者、丹蔵淳治氏は2006年、南へ向かう飛行機に乗り込み、中国東部の小さな町、浙江省海寧市へと向かった。この日を境に彼の人生はこの町と深く交わることとなる。

 ▽中国の工場で教える日本の「技術ボランティア」

 70歳を過ぎた丹蔵氏は毎日午前8時前に浙江万方安道拓紡績科技有限公司の作業場に姿を見せる。

 「丹蔵さんはほぼ毎日、一番にこの作業場に来ています。みんな親しげに『丹蔵(ダンザン)』と呼んでいます」と語る作業員の楊懐琴(Yang Huaiqin)さんは丹蔵氏と十数年一緒に仕事をしているが、このかたくななまでのこだわりを理解できないでいる。楊さんは「私が工場で働き始めてから、丹蔵さんはほぼ毎日そうしています」と話した。

 さらに、みんなが敬服しつつも不思議に思っているのは、丹蔵氏が技術ボランティアで、13年近く働いているのに、給料を一銭も受け取らないことだ。丹蔵氏はよくこの点を質問されるが、いつも「退職金で生活は十分維持できるので、お金に対する執着はない。自分の好きなことを毎日楽しくできること自体にとても価値がある」とさらりと言ってのける。

 丹蔵氏は1945年に奈良県で生まれ、定年前はユニチカで働き、40年の経(たて)編み技術経験を持つ。海寧市との縁が生まれたのは2003年、当時ユニチカの代表として万方を訪れ、提携について協議した際、万方に対して非常に良い印象を持つとともに、中国の経編み産業の発展の様子に深い印象を受け、忘れられなかったという。

 丹蔵氏は「当時、日本の経編み産業はすでに少しずつ衰退していた。海寧には多くの経編み企業があったが、いずれも規模が小さく、技術も立ち遅れていて、日本とは比べものにならなかった」と語る。ある時、丹蔵氏は万方の毛偉華(Mao Weihua)総経理に「定年退職してから、申さんの会社で働かせてくれないか。給料はいらないから」と申し出た。毛氏は少し驚いたが、すぐに丹蔵氏の手をしっかりと握り「朋あり遠方より来る、また楽しからずや。歓迎しますよ!」と返答した。

 そして丹蔵氏は、万方の技術顧問兼高級エンジニアになった。その仕事は、自身が生涯をかけて蓄積してきた技術や経験を余すところなく会社や従業員に伝えることだ。

 ▽中国に最高の経編み製品を作らせる

 「停、停(止めて、止めて)」。完成品検査作業場の騒々しい環境の下で、丹蔵氏はあまり上手ではない中国語を使って大声で検査員に機械を止めさせた。手を伸ばして生地を取り、目の前に持ってきて細かく観察。そして、細かいしわを平らにならすと「オーケー!」と言った。

 丹蔵氏の仕事は「微に入り細を穿つ」という言葉で形容することができる。検品作業場では以前、切り落とした布の切れ端を床に放っておくことにみんなが慣れていたが、丹蔵氏は見つけるといつも何も言わずに布を拾い上げた。これが一日また一日と続き、ある程度日にちが経つと、作業員全員が切れ端や糸くずを回収のために意識して1カ所に集めておくようになった。

 丹蔵氏はこの13年、コストダウン、原料の節約、品質の向上、新製品の研究開発などさまざまな分野で、会社のために多くの仕事をこなし、管理、技術面で一歩ずつ会社の各部門、各個人に影響を与えていった。

 丹蔵氏が抱き続ける信念は「他人が作れない最高の製品を作らなければならない」。万方へ来てから、丹蔵氏は会社が医療用生地を開発し、遠く日本や中国国内の多くの医療機関へ販売するのを支援した。

 「丹蔵さんはいつも私に、安い物ではなく、日本よりもいい製品を中国で作ろうじゃないかと言う」と語る毛氏はこの10年余り、「最高の製品を作る」という道を丹蔵氏と一緒に進み続けてきた。

 ▽「奈良と海寧、私には二つの家がある」

 丹蔵氏は「あなたたちの報道は、日本で見られるのかな。孫にも見せたいんだ」と聞いてきた。家族は日本にいて、毎年4、5回帰国して家族団らんを楽しむ。丹蔵氏は「私は海寧にも『家族』がいる。それは、同僚たちだ。彼らと一緒にいると、とても楽しいし、うれしい」と語る。

 中国の歴史書を読み、中国の文化や故事を知るのが好きだという丹蔵氏は、自身の二つの「家」が歴史的な深いつながりを持っていると語る。「奈良は美しい観光都市で、中国との交流が古くから延々と続いている。中国の商業、貿易、文化上の交流も1000年に上る歴史がある」。

 2007年、丹蔵氏は毛氏と共に工場の敷地内に桜の木を1本植えた。二つの地、二つの企業、2人の友好を象徴する木だ。植えた当時は親指ほどの太さだった幹が、今は茶わんの口よりも太くなった。

 温かく友好的な海寧市の人々も、丹蔵氏が中国に果たした貢献を忘れていない。丹蔵氏は同市に多大な貢献をした人に贈られる「十大突出奉献賞」に選ばれたほか、同市を管轄する地級市の嘉興市から「南湖友誼賞」を授与された。(c)Xinhua News/AFPBB News