■特有の位置付け

 それではなぜ、住民たちはそこにとどまるのか? その鍵は、この地区特有の位置付けにある。

 ヨルダン川西岸に住むパレスチナ人とは異なり、エルサレム出身のパレスチナ人は、エルサレムやイスラエル全土への移動が認められる身分証明書を保有している。一方、ヨルダン川西岸の身分証明書を保有する人々は、エルサレムに入る際に許可を得なければならない。

 もしエルサレム出身のパレスチナ人が、壁の向こう側で暮らしていることがイスラエル当局に見つかれば、エルサレムの身分証明書を剥奪される可能性もある。だが、クフルアカブのような場所では、そうしたことは起こらない。

 パレスチナ側の推定では、クフルアカブ住民の約85%が、エルサレムの身分証明書を保有しているという。

■「パレスチナ人の存在を守れ」

 イスラエルのエルサレム市長の下で東エルサレム担当顧問を務めるベン・アブラハミ(Ben Avrahami)氏は、市当局はクフルアカブを「分離不可能なエルサレムの一部分」として扱っていると主張する。

 同氏は、AFPの取材に対し「道路舗装や整備計画、建設工事といったインフラには多大に関与している」と述べ、住民らに何の行政サービスも提供していないのに税金だけ納めさせているといった批判を否定した。

 パレスチナ当局も、この地区に代表機関を置いている。クフルアカブのパレスチナ当局者であるアシュラフ・ラムニ(Ashraf al-Ramuni)氏は、「われわれはイスラエル当局とは違う。なぜなら、この地区におけるパレスチナ人の存在を守るために働いているからだ」と語った。同氏によると、パレスチナ当局は年間約100万ドル(約1億1000万円)を同地区でのインフラ事業に投じているという。

 状況改善のため同地区で数年間活動を行っているムニル・ズハイル(Munir Zughair)氏は、野放図な建設作業の阻止を求めてエルサレム市当局を提訴したと語った。この地区には、10階建て以上の建物が300棟以上あると同氏は推測している。このうちなんらかの法規制に従っているものは一つもないという。

 同氏は、住民たちはエルサレムでの高い生活費を苦に引っ越したのかもしれないが、「彼らにもエルサレムの市民税の支払いが義務付けられている」のだから、同じ行政サービスが提供されるべきだと語った。(c)AFP/Hossam Ezzedine