【3月18日 AFP】今年2月、北極圏に位置するロシアの集落で50頭を超えるホッキョググマが食べ物を求めてうろつき、非常事態宣言が発令されたが、あの騒動は、これから起きることの序章にすぎないのかもしれない。温暖化が進む北極圏でロシア政府が活動範囲を広げるほど、ホッキョクグマと人との衝突は増えていくとみられている。

 ホッキョクグマが現れたのは、極北部ノバヤゼムリャ(Novaya Zemlya)列島の村、ベルーシャグバ(Belyushya Guba)だ。地元当局は1週間にわたって非常事態宣言を出し、ロシア政府に救援を求めた。

 徘徊(はいかい)するクマたちの写真がインターネット上で拡散すると、地元当局がごみ捨て場を放置していたせいでクマが生ごみをあさりに来たのだろうと非難する声が一部から上がった。だが専門家らは、ホッキョクグマが人のこれほど近くにまでやって来た主な理由は、海の凍結時期が遅れているからだと説明する。そのためホッキョクグマはアザラシを狩ることができず、別の食料を探しに行かなければならない。

 ロシア政府は、エネルギー事業や軍事戦略の利益を追求する一方で北航路(Northern Passage)を活用するため、北極圏の活動範囲を拡大している。それに伴い、人とホッキョクグマの衝突はさらに増えるだろうと専門家らは予測する。

「ホッキョクグマは複数の地域で生活の足場を失い、陸に上がって来ている」と、生物学者のアナトリー・コチネフ(Anatoly Kochnev)氏は述べた。

 ノバヤゼムリャ列島が面するバレンツ海(Barents Seas)は、ホッキョクグマの生息圏の中では最速で氷の融解が進んでいる。米非営利団体「ポーラー・ベアズ・インターナショナル(Polar Bears International)」によると、海面が凍結する期間は過去数十年で年間20週も減っている。

 ベルーシャグバ村の救援にモスクワから駆け付けたセベルツォフ研究所(Severtsov Institute)のイリヤ・モルドビンツェフ(Ilya Mordvintsev)氏によると、以前はこの近辺の海面は12月には凍結していた。「何千年にもわたって、この時期になるとホッキョクグマはアザラシを狩りに移動していた。ところが今年は浜辺に来ても氷がなかった」。先月、集落をうろついた多数のホッキョクグマはその後、海面が凍結したため、別の場所に移動したが、「今後、数年のうちに同じことが起きる可能性は排除できない」という。