【3月9日 AFP】チンパンジーは人間と同じく文化的な多様性を持つものの、生息地に人間が侵入することで、そうした多様性が失われているとの研究結果が7日、発表された。

 米科学誌サイエンス(Science)に掲載された論文によると、辺境の原生林にすむチンパンジーに比べると、人の影響が最も及んでいる地域のチンパンジーでは、行動の多様性が平均して88%も低下しているという。

 国際的な研究チームによる今回の画期的な発表は、既存の研究に、46のコミュニティーで9年間にわたって続けられた独自の観察結果を補足した内容に基づいている。研究チームによれば、チンパンジーの行動についてこうしたデータを集めたものはこれが初だという。

 研究チームは、赤道付近に位置するアフリカの17か国で、チンパンジー本来の生息地である熱帯雨林やサバンナで暮らす144の群れにおいて、一般的もしくは本能によるものではない、群れごとに異なった31の行動を観察。多様性を反映し、チンパンジーが採食や穴掘りに使用する道具は、必ずしもすべての群れに共通しているわけではなく、アリやシロアリの捕らえ方、ハチミツ、ナッツの採取方法も異なっていた。

 研究チームは、こうした多様性は群れの中で個々のチンパンジー同士で伝えられるものと仮定している。

 研究結果によると、チンパンジーが生息する環境が森林伐採、もしくは道路やインフラ設備、農地や農園などが設置されてかく乱されると、それだけチンパンジーの行動の多様性が低下。研究チームが観察を続けているエリアで、チンパンジーがナッツを割らなくなった例があったという。

 ドイツのマックス・プランク進化人類学研究所(Max Planck Institute for Evolutionary Anthropology)とiDiv研究センターに所属する生態学者、ヒャルマー・クール(Hjalmar Kuehl)氏はAFPに対し、こうした行動をチンパンジーがやめてしまった理由についての仮説を披露。「こうした行為は非常に音が出るので、人に容易に居場所を見つけられて捕獲される恐れがあるせいかもしれない」と述べた。

 音が出るため、場合によって身に危険を及ぼす恐れがある行動としては、他に、ギニアビサウに生息するチンパンジーが行う「投石」がある。同域に生息するチンパンジーは、コミュニケーションの一種として木に石を投げ付ける。

 またギニアで見られる藻を棒で釣り上げる行為も、侵入してきた人間の脅威にさらされているという。

 クール氏は、生物多様性の保全に関する計画が、動物の行動における多様性の保護が含まれるよう拡張していくべきことを今回の研究結果が示唆していると主張。同氏は「チンパンジーの文化遺産地」の創設を提案し、この考えをオランウータンやクジラなど、高い程度の文化的多様性を持つ種にも拡大して適用し得ると述べた。(c)AFP