【3月7日 AFP】中国共産党が、ドイツ人の社会主義思想家・経済学者のカール・マルクス(Karl Marx)を主人公に抜てきしたアニメシリーズで若い世代の支持を獲得するという新たな作戦に出ている。この作品に登場するマルクスは従来のイメージとは異なり、ひげを生やしていない。体形もスリムで、おまけに、どうしようもないロマンチストだ。

 アニメ「領風者(The Leader)」は、子どもたちが分厚い教科書や授業の中で初めて出会うマルクスのイメージを変え、より受け入れられやすくするために制作された。

「カール・マルクスに関する書籍はたくさんあるが、若者向けのものはあまりない」「そのギャップを埋めたかった」と、脚本を担当した卓絲娜(Zhuo Sina)氏はAFPに語った。「もっと多くの人々にマルクスとその生涯に興味を持ってもらい、より肯定的に理解してほしい」

 制作したのはアニメーションスタジオ「娃娃魚動画(Wawayu)」だが、中国共産党の宣伝部門と国営のマルクス主義理論研究所が制作を後援。中国共産党がとりわけ学校や大学構内で思想の締め付けを強化する中で、配信が始まった。

 中国は1978年に「改革・開放政策」へとかじを切り、経済発展によって社会は大きく変革を遂げた。その波に乗ったエリート層が伊高級車フェラーリ(Ferrari)を乗り回す一方で、中国政府がマルクスに忠誠を誓う姿は奇異に見えるかもしれない。

 だが、中国共産党は共産主義の父マルクスに今も忠実だ。明らかな矛盾を否定し、「中国式社会主義(Socialism with Chinese Characteristics)」という型に進化させた。子どもたちは中学校でマルクスと旧ソビエト連邦「建国の父」ウラジーミル・レーニン(Vladimir Lenin)の思想を学び、公務員はもちろん国営メディアの記者たちさえも、昇進のためにはマルクス主義の講座を受講しなければならない。

 習近平(Xi Jinping)国家主席は昨年、共産党員にマルクス主義に関する書籍を読み、マルクス主義を「生き方」「精神の探求」とみなすよう強く求めた。その結果、「領風者」の脚本も一部で妥協を余儀なくされたと卓氏は説明した。

 アニメ・漫画好きの中国の若者たちに人気の大手動画共有サイト「ビリビリ(bilibili)」で1月から配信されている「領風者」の再生回数は、すでに500万回を超えている。ただ、大手レビューサイト「豆弁(Douban)」での評価は5段階評価で星2つと辛口だ。

 一方でこのアニメは、中国政府のプロパガンダ(宣伝活動)をよそに、マルクス主義や中国における労働者の権利、信教の自由などをめぐる議論も巻き起こしている。ビリビリ動画の特徴でもある視聴者が画面上に投稿するコメント(弾幕)には、労働運動に関連したソーシャルメディアのアカウントが閉鎖させられた件や、名門・北京大学(Peking University)の学生運動を弾圧する大学当局や警察の試みへの言及もある。

 中国の若者文化とメディアについて研究しているオランダ・アムステルダム大学(University of Amsterdam)のジェローン・デ・クロー(Jeroen de Kloet)教授は、「これがプロパガンダの面白いところだ。意図した方向と真逆に読むこともできてしまう」とAFPに語った。(c)AFP/Eva XIAO