パンダは4台、164は3台目

クルマと「一緒の布団で眠りたい」「一緒にお風呂に入って綺麗にしてあげたい」。子供の頃、こんな自動車との生活を夢想した、埼玉県在住の小野寺竜太さん( 40 )。父親に連れていってもらった晴海のモーターショー以来、毎回ショーに足を運んできたクルマ好きだ。しかも建築にも関心が高い。そんな小野寺さんのお宅は、大きな交差点の角地に建つ、小さいがかなり目立つ家だ。

大きなガラス窓のある部屋が、躯体から飛び出しているのが特徴の小野寺邸。4車線ある幅22mの道路の交差点の角に建っており、両隣は郊外型商業施設。窓は西向きで大通りに面しているが、スクリーンで日差しや視線を遮ることも可能。

屋根面の雨水が窓のガラス面を伝わりにくい工夫が施されているので、窓はさほど汚れず、竣工以来5年間で掃除が必要となったことは無い。

1階の天井高は、ミニバンも駐車可能な195㎝とした。夏の家族旅行の途中、アルファ・ロメオが炎天下で何度か止まってしまったことがあったので、166を手放しトヨタ・アルファード(2015年型)を普段の足とすることに。

音などを含めた感覚的な部分に魅せられ、イタリア車好きとなった小野寺さん。なかでも思い出深いのが、ジウジアーロの手による初代フィアット・パンダだ。これまで4台のパンダに乗ってきたが、なかでも1台目は、エアコンを外し、ロールケージを組み込むなどの改造を施し、パンダ・カップに参戦した。現在所有のイタリア車は、アルファ・ロメオ164Q4(1996年型)。自動車雑誌の見開き広告写真で心を奪われたクルマである。たしかにエンリコ・フミアの手によるこのデザインは美しい。そう、小野寺さんは直線的なデザインが好きなのだ。そして今の164は3台目。縁があって、知人の元から3年前にやってきた、走行距離が15万キロのクルマである。

これまでパンダは、小野寺さんの元を1、2年で離れていくことが多かったが、164とはどれも数年を共にしている。しかも今の164ともう1台のアルファ・ロメオ、166の2台持ちの時期もあった。しかも猛暑の夏でも信頼できるクルマが必要となった際、古いがよりイタリア的な164を手元に残し、166を手放している。

土地は100ヶ所も検討

クルマ愛に溢れる小野寺さんにとって、屋根のある自宅ガレージに愛車を迎え入れたいのは当然のことだろう。しかも子供の頃は注文住宅で暮らし、母親が見ていたテレビ番組「渡辺篤史の建もの探訪」の影響で、建築には興味がある。とはいえサラリーマンが家を持つことは容易ではない。そこで、最初から小さな家を建てることにターゲットを定め、準備を始めた。余裕のある広さのマンションから1LDKのアパートに引っ越し、夫婦で狭い家での生活に慣れたのはそのひとつ。何年かかけて調査し、100ヶ所近くの土地の実地検分を行った。

そうして選んだのが、長年売れ残っていた、4車線の市道の交差点にある今の敷地である。両隣が商業施設という人目につく場所だが、面積はわずか28坪。クルマ移動が基本の地域にあって、コンビニにするにも駐車場の確保が不可能なサイズの土地を、丹念に探した甲斐あって、良い条件で入手した。そして、この目立つ場所に相応しい、カッコいい家を計画するのである。多くの候補から土地を決めたように、建築家選びに関しても、建築専門誌で入念なリサーチを行った。買った雑誌は、積めば高さ1mほどに。

「気になる住宅に付箋を貼っていった結果、一番多かったのが庄司寛建築設計事務所の庄司さんの設計だった」。「無駄な装飾が無い」「カッコいいデザイン」で「RC住宅を得意とする」「一貫したスタイル」が選定理由。ソフトで誠実、そして包容力のある庄司さんの人柄も、依頼する際の決め手となった。

愛車に通ずる外観のデザイン

さて、小野寺さんの土地は、28坪しかないだけでなく、さらなるマイナス要素を抱えていた。地盤が軟らかく特別な対応が必要なうえ、4坪も歩道として市に供出する必要があったのだ。それにもかかわらず、庄司さんはローコスト住宅とは思えない、印象的な外観の家を設計した。特徴は、直線で構成されたコンクリートの躯体から、大きなガラス窓を持つ部屋が突き出たデザイン。小野寺さんのクルマの趣味から好きなデザインを推察し、外観を設計したのである。この突き出た部分の上部は木造なので軽く、軟らかい地盤への負担が少ないうえ、コスト削減にも貢献している。

設計当初の小野寺さんの要望は、クルマ3台が駐車できる家。建築家は28坪で5台停まれる設計をしたが、友人たちが訪れた際、ミニや軽自動車を含めて7台停めたことがある。冬でも快適に洗車ができるようにと、ガレージ内の洗車ホースからはお湯が出るようにした。1階のガラス張りの部分は、小野寺さんの書斎。プライバシーを保つためのスクリーンも用意されている。

玄関ホール脇の半地下部分は、小野寺さんの書斎。2畳ほどの空間だが、吹き抜けになっているので広さを感じる。

間取りも、住宅の殆どの機能は2階に集め、1階は玄関と駐車スぺースのみだが、地盤強化のために生まれた窪みを利用し、玄関脇に書斎を設けたのもアイディアである。2面がガラス張りの半地下のこの場所からは、愛車が眺められるうえ、小さな家にもかかわらず、家族に気兼ねなく音楽を楽しむこともできるのだ。

コストを抑えるため空調機は1台のみ。天井は張らずダクトも見える状態。グレーの壁の部分がRCで、白い部分は木造。
デザインが美しいからと、高価なドイツ製のIHコンロ、ガゲナウを導入した。
洗濯物干場は箱状の階段を上った屋上。狭さを感じないようにと、2階は回遊できる間取りに。
珍しいノルウェー製のアンプ、エレクトロコンパニエやイタリア製のスピーカー、ソナスファベール所有。

自動車用の機器を使ったオーディオのためのシェルフはDIY。

2階にも無駄な空間は無い。突き出した部分の大きな窓の向こうは広い道路なので、視線が抜けている。しかも上方に行くにしたがって広がる斜め壁の玄関吹き抜けは、僅か1mほど幅が広がっただけだが、小さな住宅にあって効果は絶大。小野寺邸は、サイズを感じさせない、豊かな広がりが印象に残った。

実は小野寺さん、建築家の庄司さんに依頼する前に、ある建築家紹介会社の利用を検討したことがあったという。その会社からは、20名を超える建築家による、この土地のための設計図が無料で寄せられた。ところが残念なことに、心揺さぶる提案は皆無。それでも義理を感じた小野寺さんは大いに悩み、最も「まし」な案に決めるつもりでいたそうだ。そんな時、心情を察し、気に入らないデザインなら断るべきと助言したのは、それまで家造りに意見を挟むことの無かった奥様だったという。クルマ好きのお父様と住宅好きのお母様、そして奥様の存在が無ければ、今の小野寺さんの個性的な家も、豊かなカーライフも存在しなかったのだ。

カッコいい小野寺邸は、家族のつながりの結晶なのである。

■建築家:庄司寛 1961年、東京生まれ。早稲田大学卒。ESPAD環境建築研究所などを経て独立。RCの住宅を得意とし、狭小から豪邸まで幅広く手掛ける。端正で上品な佇まいと、印象に残る外観が特徴。手放す気になれないと、1994年に新車で購入したビュイックのステーションワゴンに乗り続けている。

 (ENGINE 2017年11月号)