■規制の動きも

 40代後半の遊牧民でラクダ飼いのアフマド・ブーチア(Ahmad Boutsia)さんも、安定した収入がある現在の仕事を見つける前、隕石販売を10年ほどやっていたという。隕石取引はもうかるが、ほかの仕事と両立させるのは難しいことが多い。

「ラクダを連れて歩きながら、ずっと地面を見ていました。そんなふうにして、一日中、そこら一帯を歩き回っていたんです」。青いチュニックを着たブーチアさんはそう言って笑う。

「元々は(隕石について)特に詳しいわけではなかったんですが、いろんな石を見分けられるほど目は鍛えられていました。それで、普通とは違った見た目をした石を拾い集めたというわけです」

 しばらくすると、組織的な隕石取引も行われるようになった。今では遊牧民たちは、隕石を売るために周辺各地からエルフードにやって来ている。

 ブーチアさんは説明する。「彼らは皆この町を通過します。アルジェリア、モーリタニア、マリ、ニジェールとの十字路に位置するからです。それに、ほかの国と違って、モロッコでは隕石の販売が合法なので」

 モロッコには2011年、極めて珍しい火星由来の隕石も落下している。黒い光沢をたたえたこの美しい隕石は、70万年余り前に火星から噴出されたと推定され、落下場所近くの村の名にちなんで「ティサン(Tissint)」と名づけられた。英BBC放送によれば、過去100年で最も重要な隕石と考えられている。

 米紙ニューヨーク・タイムズ(New York Times)の2012年の報道によると、この隕石は後に、ロンドンの自然史博物館(Natural History Museum)が年間購入予算の「数倍」という破格の価格で購入している。

 一方、モロッコでは最近、隕石取引の禁止を求める動きも出ている。

 1951年に公布されたモロッコの現行の鉱業法では、隕石取引業に関してはあいまいな規定しかない。同法では「鉱石標本、化石および隕石の採取、収集および販売に関する活動」は特別な規定や法令で規制されるとされているが、これまで隕石の採集や販売を規制する法案は起草されていない。

 隕石取引業者を「マフィア」と呼んで批判するのが、首都ラバト(Rabat)にあるモハメド5世大学(University Mohammed V)のモハメド・ブータキユー(Mohamed Boutakiout)教授(古生物学・地質学)だ。同氏らは鉱業法を改正し、隕石を所有したり売買したりしようとした人に高額の罰金を科すことなどを提案している。同氏はまた、隕石は国の所有物という立場から、モロッコで見つかった隕石は国内の博物館や大学に保管されるべきだとも訴えている。

 こうした動きに対して、前出のカリヨン氏は、隕石の売買を禁止しても地元が貧しくなるだけだと反論する。「隕石取引の禁止を求める学者たちがいますが、もし政府が市場を閉鎖すれば、人々は食べていけなくなるでしょう」

 エルフードの中央市場からそう遠くない場所にあるカフェで話を聞いた隕石売りのハミ・タヒリ(Hami Tahiri)さんは、規制案への軽蔑を隠さなかった。タヒリさんによると、政府はすでに一部の隕石に関して、販売を制限する方針を記した冊子を配布しているという。

「悪い兆しだ。隕石の売買が禁止されたら、ここの人たちはどうやって生計を立てていけばいい? ここでは職業は(主に)3つに関わるものしかないんだ。デーツ、隕石、そして砂だ」

By Quentin Müller, Sebastian Castelier

(c)Middle East Eye 2019/AFPBB News