■遊牧民を貧困から救う

 エルフードでは、住民の実に7割が隕石の採集・販売で生計を立てているとみられている。

 遊牧民一家の息子、イスマイル・モハメド(Ismail Mohammed)さんが、エルフード一帯で1990年代初めに隕石ビジネスが始まったいきさつを語ってくれた。

 モロッコの隕石ビジネスを語る上で欠かせないのが、旧宗主国フランスの地質学者ルイ・カリヨン(Louis Carion)氏の一家だ。同氏は20年以上にわたって隕石取引に従事しており、特に彼の父親は、モロッコに隕石ビジネスを導入するのに貢献した人として、エルフードでは有名な人物だ。

 カリヨン氏は言う。「90年代初めのことです。私たちは遊牧民に小さな磁石を配ったんです。ほかに小冊子と、隕石の中身のサンプルも。彼らが普通の石と隕石を簡単に見分けられるようにね」。こうしてカリヨン一家は、フランスの隕石販売業の草分けになった。

 モハメドさんの一家は彼が子どもの時に定住するようになったが、それも彼らが隕石取引に関わるようになったことが大きいという。

 モハメドさんは10代の頃から、一家が始めたこの新たなビジネスに関わるようになった。モハメドさんと「たくさんの」いとこたちは、普通とは違ったように見える石を探して砂丘を歩き回ったという。

 モロッコではこれに先立ち、1970年代に化石ビジネスが勃興していた。それを背景に、隕石ビジネスでも、大量にやって来る外国人向けのサービスで稼ぐようになるのは自然な流れだった。実際、モハメドさん自身も現地の人気ガイドになった。

 どこで隕石が見つかるかが分かるようになっていたというモハメドさんは、エルフードがあるドラタフィラレト(Draa-Tafilalet)地方を訪れる地質学者ら向けにガイド業を始めた。元々は農業に重点的に取り組んでいた同地方が、隕石探しをする人であふれる場所になるのには、そう時間はかからなかった。

 モハメドさんはこんなエピソードを披露してくれた。「フランス人の地質学者と砂漠を歩いていると、遊牧民のテントが目に入りました。訪れてみると、男は誰もいなかったのですが、女性が1人いて、隕石を買いませんかと持ちかけられたんです」

「女性が示した値段は安くて、キロ当たり1500ディルハム(約1万7000円)ほどでした。取引が成立した後、彼女はこうささやくんです。もし興味があればだけど、とっても珍しい隕石があるのよ、と」

「彼女はその石を自分のブラの中に隠していて、取り出して見せてくれました。値段はなんと、グラム当たりで1000ディルハム(約1万2000円)でした」

 モハメドさんは、「ストーンラッシュ」とも呼ばれるこうしたジオロジカル・ツーリズム(地質学的観光)のおかげで、多くの遊牧民が快適な生活を送っていると強調する。「隕石ビジネスによって、遊牧民の多くの世帯が貧困から救われたんです」