【2月28日 MEE】モロッコ東部の町エルフード(Erfoud)の目抜き通りは閑散としているが、ハキム(Hakim)さんの鋭い目を逃れられる人は誰ひとりいない。カフェのテラス席に座ったハキムさんは、たばこをふかしながら、新たな客になってくれそうな人を辛抱強く待っている。観光客が目の前を通り過ぎるたびに、椅子から立ち上がっては、無防備そうなその人のところに駆け寄り、お決まりのパッケージツアーを売り込む。

 話してみて、相手がツアーに興味を持っているという感触があれば、依頼主のところへ案内する。地元で「隕石(いんせき)売り」として知られている人たちだ。

 50代前半のバシル・ブーディン(Bachir Boudine)氏はその一人。年に数回、弟と一緒に米国に行き、こっそり持ち込んだ隕石を売って大もうけしているという。

 町の郊外へ出て、サハラ砂漠(Sahara Desert)の大砂丘で有名なメルズーガ(Merzouga)の方角へ進んでいくと、ブーディン氏が観光客向けに開いている小さな店がある。そこでは、コンドライトと呼ばれる石質の隕石と出会える。ただ、これらの隕石はそれほど高価ではなく、石の形や状態にもよるが、せいぜい30ドル(約3300円)かそこらだ。

「絶品クラスのものはね、家の中に隠してあるんだ」。ブーディン氏はにやにやしながら言う。そうした特別な隕石は、自分のコレクションに加えようと世界中からやってくる隕石マニアたちのためにとってあるのだという。

 隕石がモロッコの乾燥した砂漠地帯に落下すると、その隕石は元の状態で保存されることになる。砂漠では、土壌の水気や湿気による変化を被ることがないからだ。

 ブーディン氏は当初、隕石の販売はせず、自宅で飾っているだけだった。隕石がビッグビジネスになるとは、夢にも思っていなかったという。だがやがて、隕石には大きな需要があることに気づき、それを販売するようになった。ブーディン氏がこの冒険的な事業を始めて20年余りたつが、業績はずっと好調だという。

 隕石の価格は、大きさや希少性、美しさ、由来によって決まる。ブーディン氏は、隕石販売業でどれくらい稼いでいるのかについては言葉を濁したものの、最上級の隕石だとかなり稼げると教えてくれた。遊牧民(ノマド)からそうした隕石を仕入れて顧客に売ると、普通は700モロッコ・ディルハム(約8100円)ほどの利益が出るのだという。

 彼の店でそんな話を聞いていると、男性が入ってきた。男性は財布から小さな2個の石を取り出し、ブーディン氏に差し出した。ブーディン氏はルーペを取り出して石をしげしげと観察し、これは特に変わったところのない石ですねと断言した。石には光沢があったが、彼の鑑定によれば湖の蒸発に由来するものなのだという。

 工事現場監督をしているという50代のその男性は、今回は見つけた石で小遣い稼ぎができなかったと、残念そうに帰っていった。