【3月5日 AFP】フランス・パリ右岸の細い路地にひっそりとたたずむ「ベベルレ(Beverley)」は、パリで唯一の成人映画館として数十年にわたり営業してきた。1970~80年代に控えめながらも堂々と休みなく映画を上映していた。

 だが、賃料の上昇や社会習慣の変化にのまれ、ベベルレは過ぎしパリの象徴となった。2月23日、モーリス・ラロシュ(Maurice Laroche)館長はカップルで映画観賞する「カップルナイト」の最終上映後、1週間劇場に残り、映画フィルムやポスター、座席など劇場に残ったすべてを売りに出した。

 ファンらはベベルレの思い出の品を手に入れようと集まった。男性数人が大量のフィルムのリールに見入ったり巨大なスピーカーを持ち帰ろうとしたりする中、ラロシュ氏は25日、AFPの取材で「私以外はすべて売り出し中だ」と話した。24日に売り出しが始まった際、れんが造りの壁に囲まれた狭い劇場を行ったり来たりしたファンのうち約3分の1は女性が占めた。

 ラロシュ氏は1983年以来、ベベルレの館長を務めている。93年にベベルレを買い取った同氏は、75歳になった今、フランス南西部にある海辺のリゾート地、ロワイヤン(Royan)で老後を過ごす準備ができていると述べた。

 成人映画館の観客が高齢になるにつれて、観客の数は減っていった。1週間の売り上げは20年前、1500ユーロ(約19万円)だったのに対し、つい最近では500ユーロ(約6万円)にも満たなくなった。現在の映画観賞料金は12ユーロ(約1500円)。

 ラロシュ氏はベベルレについて「未成年者は誰もポルノ映画を見ていないと確信できる場所だった。最近では未成年者はみんな携帯電話で見ている」と話した。

 ベベルレは不動産開発業者に買収された。この一角はパリの中でも急速にジェントリフィケーション(再開発による地区の高級化)が進んでおり、ベベルレは通りにあるデザイナーズホテルやタパスバーと同じようなものに変わるだろう。
 
 フランスの映画協会によると、同国で残る成人映画館は南東部グルノーブル(Grenoble)にある「ボックス(Vox)」のみ。だが、ボックスは25日のAFPの電話取材に応じていない。
 
 仏映画ジャーナリストのジャック・ジメール(Jacques Zimmer)氏はAFPの取材で、「フランスでは1975年前後の全盛期に成人映画館が900軒余りあったがわずか6年後にはたった90軒に減った」と指摘した。

 ラロシュ氏は「たくさんの思い出を頭に詰め込んで」自分の新しいアパートに向かい、バルコニーに映画館にあった赤いビニール製の座席2つを置く考えだ。(c)AFP