■オリガミで生計を立てる

 フメイドさんは2007年にガザ地区の高校を卒業し、大学には進学しないと決めた後、厳しい現実に直面する。地元で職を得るのは不可能に近いということだ。ガザ地区では、学士号や修士号を持つ人ですら仕事を見つけるのに苦労する。

「実家は貧しくて、やっとのことで食いつないでいる状態でした。それもあって、俺は何か新しい稼ぎ口を探そうという気になったんです」「ご存じのように、ここで仕事を見つけるのは簡単じゃない。特に、大学を出ていない人にとってはね。だけど俺は、何とか別の道を見つけようとしたんです」

 世界銀行(World Bank)によると、ガザ地区の失業率は2018年4〜6月期に53.7%に悪化した。とりわけ、若者の失業率は70%を超える水準で推移している。

 そんな状況でも、フメイドさんの決意は変わらず、あきらめなかった。周りが失業者だらけだとしても、この苦境に立ち向かうすべを見つけるしかない。そう自覚していたからだ。

「始まりは去年の9月のことです。ハンドメイドギフトのお店を経営しているガザのある若い女性が、同僚たちから俺のオリガミアートのことを聞いたらしく、連絡をくれたんです。で、彼女の名前、ハヤート(Hayat)っていうんですが、その名前の作品を作ってほしいって依頼されたんです」

「俺は古本を使って彼女の名前の作品を作り、それを彼女のお店に持っていきました。贈り物のつもりで。そしたら彼女、なんてすてきなのって褒めちぎってくれて。代金を払わせてほしい、とも言ってくれたんです」

 フメイドさんはお金を受け取ることを固辞したが、女性はあなたは報酬をもらって当然よと言って譲らなかったという。

「彼女は100シェケル(約3000円)払ってくれました。ペーパーアートにこんな大金を払ってくれる人がいるなんて、腰を抜かしそうになりました」「彼女は写真をインスタに投稿しましょうとも言ってくれて。それで、俺は自分のアカウントのタグを付けてほしいって頼んだんです。これから始めるビジネスの宣伝になると思って。こうして、俺のアートをみんなに知ってもらえるようになったんです」

 フメイドさんは新作のために、ソーシャルメディアで友人たちに使い古した本を寄付してもらえないかと呼び掛けた。

「本を募ってからわずか1日後に、18人がただで本の提供を申し出てくれました。だけど、2冊以外はすべて断りました」「残りの16冊はどれもまだ十分役に立ちそうで、状態も良かったんですが、そういうのは俺が欲しい本じゃないんです。アートのために本を駄目にしたくはないんです。ぼろぼろで、もう役に立ちそうにない本だけ、譲ってもらいました」

 フメイドさんはこれまでに、古本を使ったオリガミ作品を50点余り制作している。いずれも、オリガミの伝統に根ざしながら、現代的な趣向を凝らした作品だ。

「多くの作品が売れて、とても気に入ってもらっています。ただ、オリガミだけではまだ食べていけません。特に今は、生きるのに必要なものを確保するのにさえ苦労するような時期だから」