■地獄のような体験

 一方、インタビューからは、徴兵されたばかりの若い兵士が十分な訓練を受けないまま、ろくな装備も与えられずにシナイ半島に送られている実態も浮かび上がった。

 警察の特殊部隊の将校として2013年にシナイ半島に配属された経験を持つオマル(Omar)さんは、新兵に供与される装備は1990年代から変わらず、自身のような将校クラスでも装備は不十分だと話す。例えば2014年まで、暗視ゴーグルは過激派が使っているのに、部隊側は持っていなかったという。

 オマルさんは、徴集兵がテロ対策に従事することの問題点も指摘する。「世界各国の軍隊では、戦闘活動向けに新兵をしっかり訓練する必要があるわけですが、テロとの戦いの場合、徴集兵は問題となりがちです。徴集兵はモチベーションが低いか、逆に興奮し過ぎているかのどちらかです。そして、どちらのタイプも間違いを犯すのです」

 兵士のアフメドさんは、カイロにあるアズハル大学(Al-Azhar University)を卒業した後、シナイ半島北部の第2方面軍第2歩兵師団で兵役を務めることになった。最初に北東部イスマイリア(Ismailia)のキャンプで48日間の基礎訓練を受けたが、そこでは体形に合わない軍服を着させられ、普通の清潔な水や食料もなく、炎天下、何時間も立たされるなど、まさに「地獄のような」体験だったと振り返る。

「人生最悪の日々だった。毎晩泣いてたけど、そんなところを人に見せるわけにはいかない。もし見られようものなら、いじめられるに決まってるから」とアフメドさん。「軍隊送りの刑を言い渡されていなかったら、トルコ語を勉強して、通訳をやってただろうね。旅をして、いろんな人と出会って、間違ったこともやったりしながら、そこから学びたかった。さび付いた古い30キロのマシンガンを携えて、金属製のボックスに詰めるんじゃなくってさ」

 スエズ運河(Suez Canal)を挟んでシナイ半島と向かい合う町スエズ(Suez)のタクシー運転手、サイード(Said)さんは、よく兵役中の若者をバス停から安宿に送っているという。「彼らのほとんどから聞かれるのは、ちゃんと眠れる場所と、手作りのうまい料理を出す店だね。ハシーシュをやりたがる子も多いよ。まだほんの子どもなんだ」。サイードさんはこう続けた。

「グループの中に1人、悲しそうな顔をした兵士がいて、その子をほかの兵士たちが元気づけようとしているところもよく見かけるよ。彼らがシナイで何を見たのか、それは誰にも分からない」

By MEE correspondent in Suez, Egypt

(c)Middle East Eye 2019/AFPBB News