■高齢化危機

 中国ではかつて親孝行を徳とする儒教の伝統の下、親は老後を子どもに頼ることができた。だが一人っ子政策をへて、現在の中国の夫婦には子育ての負担に加えて、きょうだいの力を借りずに双方の親を支援しなければならない現実が重くのしかかる。

 軍に30年以上勤務した燕園の入居者、リ・イン(Li Ying)さん(71)は「子どもたちは老いた親の世話をしなければならないという考えは、数千年にわたる古い論理だ」「社会が発展するにつれて、それが変わりつつある」と語った。

 中国に迫りつつある高齢化危機に対処するため、政府は高齢者介護事業者への税制優遇措置など複数の施策を試みている。

 高齢者ケアの受け入れ能力拡大が促されたことを受けて、民間企業はビジネスチャンスをつかもうと、不動産会社から保険会社に至るまで次々と高齢者介護事業に参入しており、中には5つ星ホテルのような居住空間と専門的な医療支援を売りにした老人ホームなども建設されている。

 泰康保険が運営する燕園の入居者らは最低6000元(約9万7000円)からの月額利用料(食費別)の別に、同社の200万元(約3300万円)の年金プランに加入するか、あるいは100万~200万元(約1600万~3300万円)の頭金を支払うかのいずれかを選択できる。

 一方、公共老人ホームの場合は、月額利用料が1000ドル(約11万円)未満だったり、居住者に補助金が交付されたりすることもあるが、より貧しい高齢者のための最後の拠り所と捉えられることが多い。

 中国の高齢者サービス産業の研究を行っている南京大学(Nanjing University)のチェン・ユウファ(Chen Youhua)教授は、「こうした産業が、急増する高齢者のニーズを満たせるかどうかは、誰がその費用を負担するかによる」と話す。民間が負担した場合、施設やベッドが余ってしまうこともあり得るが、「政府や社会が負担するのでは、現在の高齢者サービス産業はニーズを満たすことはできない」という。