■最後のとりでからの脱出

 SDFは、IS最後の支配地域となったバグズを包囲しており、ここ数週間、バグズは食料も水も医薬品も不足し、危険な状況となっている。脱出できた人の話によると、ISは残っている住民を人間の盾として使い、食料をため込み、住民が逃げ出さないよう見張っている。

「狙撃手が撃とうが、爆撃されようが、私たちはとにかく迷うことなく歩いた」。まだ歩き始めたばかりの子ども2人を連れて逃げてきた女性、フダーさんは言う。「子どもと服を抱えて、3時間も4時間も、とにかく歩き続けた。すごく喉が渇いていたが、水を持って来ることはできなかった」。毛布も持ってきたが重すぎて、バグズを出たところで道端に置いてきてしまったと言う。

 野外で寝泊まりする家族たちの横を1時間ごとに、荷台に新たな避難民を乗せてきたトラックが通り過ぎる。そのたびに、泣き叫ぶ子どもたちの口に砂ぼこりが入る。

 ルガヤ・イブラヒム(Rughaya Ibrahim)さんは、決して置いてくることができない大事なものをバグズから運んで来た。2日前、迫撃砲の攻撃に遭い、右足を骨折した上に爆弾の金属片が足のあちこちに残った8歳の息子マーン君だ。

 姉妹と一緒に子どもたちを連れてバグズを脱出したとき、一家は木でその場しのぎの担架を作り、マーン君を乗せた。「肩に担いでは下ろし、下ろしては担いで、運んだ」とイブラヒムさんはAFPに語った。この一家もイラク出身で、さらに北の避難民キャンプへ移送されようとしていた。

 だが、一家が乗り込もうとしていたトラックの運転手は、木製の担架を置いていくように言った。「そんな物を置く隙間はないよ。担架から下ろして、よじ登ってくれ」と怒鳴った。(c)AFP/Maya Gebeily