■フェイクとリアルの境界

 研究者らはこの間、グーグル(Google)のような民間企業や、2015年にフェイクニュース捜査を開始した米国防総省の研究技術機関、国防高等研究計画局(DARPA)のような政府機関の支援を得て、ディープフェイクの検出技術を向上させてきた。

 だが、画像に映る人がまばたきをする割合からフェイク画像を突き止める方法などを研究しているニューヨーク州立大のリュウ氏は、フェイクニュースを発見するだけでは、それが拡散し、混乱を生じさせないための対策として十分でないと認める。「動画の分析よりも大事なのは、拡散プロセスを阻害することだ」

 ここ数年でディープフェイクが進化を遂げる中、米国で昨年4月に話題になった動画があった。前大統領のバラク・オバマ(Barack Obama)氏が、現大統領のドナルド・トランプ(Donald Trump)氏を口汚くののしる動画だ。これは、映画監督のジョーダン・ピール(Jordan Peele)氏と米ニュースサイト「バズフィード(BuzzFeed)」が作ったフェイク動画だった。

 昨年は女優の顔をすげ替えたポルノ動画も拡散した。エマ・ワトソン(Emma Watson)さんやスカーレット・ヨハンソン(Scarlett Johansson)さんら有名女優のイメージが使用されたディープフェイクで、ソーシャルニュースサイト「レディット(Reddit)」やツイッター(Twitter)などでは配信が禁止されたが、その実効性は定かでない。

 こうした状況について新米国安全保障センターのシャーラー氏は、ディープフェイクを作る側と、それを検出する効果的なツールを開発しようとしているセキュリティー研究者との間で、激しい攻防が起きていると語る。

 しかし、シャーラー氏いわく、ディープフェイクへの対処策として最も重要なのは、人々の意識を高めることと、これまでは「動かし難い証拠」にしか見えなかったものに対しても、より疑い深くなる姿勢だという。「動画が拡散してしまった後では、それによって引き起こされる社会的有害事態への対処も難しくなる」 (c)AFP/Rob Lever