【1月31日 MEE】昨年、ターナー賞(Turner Prize)の最終候補が発表された時には、思わず眉をひそめた人もいたに違いない。英国ビジュアルアートの最先端に目を光らせる同賞の選考委員会が、調査機関「フォレンジック・アーキテクチャー(Forensic Architecture)」の作品をノミネートするという、実に大胆な選考をしたからだ。

 ロンドン大学ゴールドスミスカレッジ(Goldsmiths, University of London)を拠点とするフォレンジック・アーキテクチャーは、主流メディアで見逃されたり、政府によって意図的に無視、歪曲(わいきょく)されたりしている犯罪を、建築やアート、映画、監視テクノロジーといった、さまざまな分野のツールを縦横に駆使した「科学捜査(フォレンジック)」を通じて、独自に調べ上げる団体だ。その型破りな仕事はアートスペースで注目を浴びるだけでなく、国際法廷でも有力な証拠として用いられ、キュレーターと人権団体の両方から称賛される半面、抑圧的な政権からは敵視されている。

 ターナー賞の選考対象となった「The Long Duration of a Split Second」という作品を見てみよう。これは、一般的な意味でのアートというよりはむしろ調査報道に近い、「ありのままの事実」に迫った映像リポートだ。

 作品では、2017年1月にイスラエル南部ネゲブ(Negev)地方の村がイスラエル警察によって急襲された際、ベドウィンの村人とイスラエルの警察官が死亡した事件の真相を追っている。イスラエル側の説明では、死亡した村人が「テロ攻撃」を行ったということになっている。

 しかし、フォレンジック・アーキテクチャーは、目撃者の証言、現場で携帯電話で撮影された動画、司法解剖記録、カタールの衛星テレビ局「アルジャジーラ(Al-Jazeera)」の報道、音声や風向きの解析などを通じて、現場で起きたことを再現。それによって、車を運転していたベドウィンの村人に対して、イスラエルの警察官が先に発砲し、撃たれた村人が車のコントロールを失ったため、警察官をひいていたことを明らかにしてみせた。

 惜しくも受賞は逃したものの、フォレンジック・アーキテクチャーの作品が、2018年のターナー賞候補の中でもひときわ限界に挑んだ作品だったのは間違いない。彼らのアートのレーゾンデートルは、ひとつの重要な機能の上に成り立っている。それは、真実をつまびらかにすること、より正確に言うなら、真実とされているものを疑うことだ。