■「再建には40年」

 イラクのこうした辺地に住む人たちにとって、果樹や農機具は非常に高価なものだ。だから、すべて買い直すには長い時間がかかる。

 スロマンさんによると、イラク農業省はオリーブの木1本当たりの価値を2万5000ディナール(約2300円)程度と見積もっている。ISによるオリーブ園の破壊で、地元の農家がどれほど大きな損失を被ったかは、そこからも推し量れるだろう。

 議員のムサウィ氏は「町のオリーブ園やその他の果樹園をきちんと再建するには、40年はかかる」と話す。折からタルアファルは渇水にもあえいでおり、農業用水をほとんど確保できない状態にあることも、農業再建の足かせになっているという。

 ムサウィ氏は、生活の糧を失ったタルアファルの農家に対して、しかるべき補償がされなかったのは、前政権と前議会の怠慢だと不満をこぼす。

「住民は政府に対する信頼を失っています。結局、政府はバグダッドにあって、私たちは都会から遠く離れた農村地域にいるということなのでしょう。前の議会には、タルアファル選出の議員が6人いたのですが、解放後、町の状態を確かめに来た議員は一人もいませんでした」(ムサウィ氏)

 とはいえ、タルアファルの農家にとって障害となっているのは、樹木の焼失や土壌の汚染だけではない。ISが至る所に残した地雷やIED(即席爆発装置)もまた、農業の復旧を難しくしている。

「タルアファル一帯の農家はISの下で何もかも失いました。しかも、ほとんどの農地には地雷があちこちに埋められているので、皆、怖くてなかなか農地に戻れないのです」。ムサウィ氏はそう現状を説明し、国際的な地雷除去団体の支援が緊急に必要だと訴えた。

 タルアファルの農家の多くは、ISによって、あるいは戦闘中に壊された自宅の再建ですら、すでに困難に直面している。ISが彼らの生計の糧である農業に残した深い爪痕は、修復するのに何十年も要するだろう。

 かつてのオリーブ園を案内してくれたスロマンさんは、「できるものなら、今後新しい木を購入したいと思っています。しかし、私は農機具もすべて失ったのです。その一式をそろえ直すだけでも、何年もかかるでしょう。農家である私にとって、農機具はなくてはならないものです。道具がなければ、仕事ができないんです」

 日が傾き始め、スロマンさんは自宅へと戻っていった。その庭には、たった2本だけ、健康なオリーブの木が生えている。

「本来は今年(2018年)のうちに仕事の再開に手を着けておくべきだったのですが、できませんでした。来年には、どうやったらやり直せるか考えるつもりです」

 しかし、オリーブの木は成長が遅く、実をつけるまでには何年もかかる。スロマンさんは今、60代だ。

By Tom Westcott

(c)Middle East Eye 2019/AFPBB News