■国内で批判の方法を「輸出」

 英内務省のRICUに対しては、表向き「草の根」をうたうムスリム(イスラム教徒)市民社会組織や、ムスリムを対象とした「調和した英国人ムスリム・アイデンティティー」を促進する反過激主義キャンペーンの創設で果たした役割をめぐり、英国内で厳しい目が注がれている。こうした活動にRICUが関わっていることを、参加した組織や個人は知らない場合があったからだ。

 だが、IODの報告書では、こうした方法が国外に「輸出」され、中東・北アフリカ諸国の政府に教えられていることが示唆されている。さらに、現地の市民社会組織を「緩衝組織」として使うことなども言及されている。

 EUはレジリエンス強化プログラムを、2021年までにアルジェリアやヨルダンにも広げる方針だ。EUの外務省に当たる欧州対外行動庁(EEAS)はこれまでに、プログラムの第2期に1100万ユーロ(約13億7000万円)を拠出。チュニジア、モロッコ、レバノン各国に平均で415万ドル(約4億5500万円)が充てられる計算で、この額は第1期の約110万ユーロ(約1億3700万円)から大幅な増加となる。

 MEEの取材に応じたEU当局者は、「EUは現地のコミュニティーに深く根ざした本物の草の根運動を支援している」と述べた上で、RICUとは市民社会組織と政府の連携などに関する能力構築で協力していると認めた。グラフィティの制作は拠出した資金の使い道として効果的と思うかという質問に対しては、「プロジェクトの一環で、チュニジアの若者たちが自分自身と自分たちの世代が共感できる芸術表現として選んだのがグラフィティだった」と答えた。

 RICUが「戦略コミュニケーション」と呼ぶその任務の大半は秘密とされており、公に言及されることはめったにない。2007年にこのユニットの創設に関わった元当局者らの話によると、冷戦(Cold War)中に英米両国がどのようにプロパガンダ(宣伝)をソ連に対する「文化的な武器」として使ったかを描いた本などに触発されて発足が決まったという。

 IODの評価報告書はブリティッシュ・カウンシルのウェブサイト上で「誤って」(広報)公開されていたが、その後削除されている。

By Simon Hooper

(c)Middle East Eye 2019/AFPBB News