■テロを機に連携強化

 チュニジアでは2015年6月、北部スース(Sousse)郊外のビーチリゾートのホテルが銃を持った男に襲撃され、38人が死亡する事件が発生。イスラム過激派組織「イスラム国(IS)」が犯行声明を出した。英国人30人が犠牲になったこの事件以来、英政府はテロ対策でチュニジア政府と緊密に連携してきた経緯がある。国連(UN)によると、チュニジアはシリアとイラクで一時勢力を拡大したISに対し、外国人戦闘員を最も多く提供した国の一つでもある。

 評価報告書によれば、AKTの実施に先立って、チュニジア憲法問題・市民社会・人権省に設置された戦略コミュニケーション担当ユニット「代替物語プラットフォーム(Alternative Narrative Platform)」が、ロンドンでRICU主催の研修ツアーに参加していた。それと関連して、ブリティッシュ・カウンシルのレジリエンス強化チームは、力を失いつつある「トップダウン」式の政府の物語に代え、「市民と市民社会をメッセージ戦略の中心に据えた」別の物語を導入することを目指すコミュニケーション戦略を作成。AKTはその成果だったという。

 ただ、AKTの生みの親と伝えられるチュニジア人のアミナ・アベド(Amina el-Abed)氏とブリティッシュ・カウンシルはMEEの取材に対し、AKTがチュニジア政府とブリティッシュ・カウンシルによって「企画・実行された」という報告書の記述は正しくないと反論した。アベド氏は、このキャンペーンでグラフィティアーティストが広範に利用されたとされているのも事実と異なると主張。ブリティッシュ・カウンシルは、ドジャパ・マンによるグラフィティの撮影に当たって警察の許可を求めたのは「チュニジアの法律上、必要な手続きだったため」(広報担当者)と説明している。

 一方、報告書によるとレバノンでは、レジリエンス強化プログラムの一環として、リビアの首都トリポリの10代青少年を対象としたスポーツプログラムや、インターネットの安全な利用を促進するキャンペーンなどが実施された。プログラムの第2期のために出された求人広告によると、レバノン駐在のプログラムディレクターは「英外務省やRICUの同僚」と連携するとされている。

 モロッコでは若手映像作家らに対し、「暴力的な過激主義に対する意識を高める」ことを目的とした映画製作への協力が呼び掛けられた。ブリティッシュ・カウンシルのチームは、若者の間で暴力的な過激主義がはびこっている場所をマッピングする作業にも取り組んだという。