【1月30日 MEE】中東・北アフリカ地域の若者が暴力的な過激主義に染まるのを防ごうと、英政府の対テロ宣伝機関が現地でラップやグラフィティなどを活用した啓発キャンペーンを実施していることが、ミドルイースト・アイ(MEE)の調査で明らかになった。若者に対するストリートカルチャーの訴求力を生かしてキャンペーンの信用を高めつつ、過激思想に感化されやすい若者に「別の道」があるというメッセージを伝えようとする試みだ。

 キャンペーンはこれまでに、北アフリカのチュニジアとモロッコ、中東のレバノンで行われている。主導しているのは、英国の公的な国際文化交流機関で、英外務省などから資金援助を受けているブリティッシュ・カウンシル(British Council)。「中東・北アフリカのレジリエンスを強化する(Strengthening Resilience in MENA)」というプログラムの一環で行っており、2016年以降は欧州連合(EU)も資金を拠出している。

 だが、実はこのキャンペーンでは、英内務省の安全保障・テロ対策局(OSCT)内に設置されている「調査・情報・コミュニケーション・ユニット(RICU)」も、目立たないながら重要な役割を果たしていることが、MEEが確認したプログラムの評価報告書から判明した。

 英マネジメント・コンサルティング会社のIODパーク(IOD Parc)が作成したこの評価報告書の中で、プログラムの成功例の一つに挙げられているのが、チュニジアで2016年と17年のイスラム教断食月(ラマダン)に、ソーシャルメディアを中心に展開された「Ala Khatrek Tounsi(AKT、だってあなたはチュニジア人だもの)」というキャンペーンだ。

 このキャンペーンでは国民に対して、チュニジア人であることへの誇りを伝える動画や写真を、専用のウェブサイトやユーチューブ(YouTube)、フェイスブック(Facebook)に投稿するよう呼び掛けた。また、チュニジア社会を明るく描いたテレビ広告も流したほか、ラップミュージシャンにはミュージックビデオの投稿を募った。

 報告書によると、依頼を受けたラップミュージシャンたちは、キャンペーンのメッセージを支持しながらも、政府に辛辣(しんらつ)な歌詞を書いている。また、ブリティッシュ・カウンシルの依頼で、グラフィティアーティストたちは公共物の壁にキャンペーンスローガンを描いた。

 報告書では「アルジェリア政府はこのキャンペーン(AKT)への支持を、直接、間接にいくつかの方法で示している」と指摘。一例として、アーティストが壁にキャンペーンスローガンのグラフィティを描いている間、その様子を警察がひそかに見守っていたことを挙げている。また、政府に批判的なラップを許容したのも、政府がAKTの目的を理解していたからこそだと解説した。

 参加したチュニジア人の人気ラッパー、ドジャパ・マン(Djappa Man)は歌詞の中で、現地の俗語で警察官を「クソ野郎」とののしっている。ドジャパ・マンはMEEの取材に対し、こんなふうに語った。「俺はメディアも政治も嫌いだし、テロも警察も嫌いだ。どんな歌詞を書くかは、誰からも命令されないよ」