■複雑さを最小限に

 ボシィネク氏と研究チームは今回、ハキリアリがどのくらいの速さで異物を除去して輸送経路を切り開き、また所定の時点で何匹のアリが作業に取り組んでいるかを調べるため、実験室内と自然界でそれぞれコロニーを観察した。また、各個体が障害物に偶然遭遇して除去する確率に基づき、典型的な、無作為化された障害物除去速度を仮定するためのコンピューターモデルも構築した。

 アリが特定の障害物を除去するために個体間で特定の指示をやりとりしているとすると、アリ同士がおしゃべりをしているか、それとも共同作業をしているかによって、除去速度が減速したり加速したりすると考えられる。

 だが、そうではなかった。除去される物体の数は時間とともにほぼ直線的に増加することが、今回の研究で明らかになったのだ。これはアリが協調して行動するとすれば「説明のつかない」ことだと考えられる。

 一部の集団行動──全長数キロに及ぶアリの道づくりなど──は、コミュニケーションなしでも達成できるとする説は比較的新しいものだ。23日の英学術専門誌「英国王立協会紀要(Proceedings of the Royal Society B)」に発表された今回の研究結果は、この説に説得力を与えている。

 今回の研究についてボシィネク氏は、「コミュニケーションが必要ないなら、するな!」というシンプルな進化の省エネ原則を示している可能性があると指摘し、「こうすることで行動を実行する際のエネルギーの消費が抑えられるとともに、それぞれに要求される複雑さが軽減される」と説明した。

 ボシィネク氏は今後の研究で、昆虫がどのようにしてエネルギーを最大限に高め、また明確な指示なしに大規模プロジェクトを実施するかに関する調査を行いたいと語っている。(c)AFP/Patrick GALEY