■簡単に越えられる国境

 ミさんが最も恐れているのは、ディさんが中国で児童婚の花嫁となっているか、売春宿で働かされていることだ。

 地元捜査当局のチュウ・フィ・クオン(Trieu Phi Cuong)氏は、中国とベトナムの国境は1300キロに及んでおり、「起伏の激しい地形のためにすべてを監視するのが難しい」と述べる。

 国境には腰の高さのくいが打たれているが、これを越えるのは簡単とクオン氏はAFPの取材に語った。取材当日、すぐ近くではベトナム人の男性が、中国側の客相手にハトを売っていた。

 犠牲者の多くは、国境を越えて中国に入っていることや、人身売買の被害者となったことさえ気づいていないという。

 ラウ・ティ・ミさん(35)は、酔って虐待する夫に嫌気が差し、息子を連れて国境へと向かった。中国でのいい仕事を約束すると話す隣人と一緒だったが、結局は人身売買の犠牲となった。

 途中で息子と離れ離れになり、異なる仲介業者に3回売られ、最終的に2800ドル(約31万円)で中国人男性に買われた。「その男には繰り返し監禁された。嫌いだった」とミさんは言う。10年後、なんとかお金をかき集め、帰国した。

 今では、飲んだくれのベトナム人の夫の元に戻り、10年前に逃げ出したのと同じ家に住んでいる。煙が立ち込めるこの小さな家には孫たちも走り回っている。

 しかし、離れ離れになった息子とは連絡が取れていない。

「完全に壊れた状態で、私はここに戻った…息子はまだ中国にいる。息子が恋しい」 (c)AFP/ Jenny Vaughan and Tran Thi Minh Ha