■口止め料

 金銭と引き換えに結婚目的で国外に渡った女性は、同意の有無にかかわらず、国連(UN)の規定で人身売買の犠牲者として分類される。

 カンボジアでは、もしも発覚した場合、仲介業者やその他関与した第三者に最長15年の実刑が科される可能性がある。被害者が未成年の場合には、刑期はさらに長くなる。

 だが、有罪判決が出されることはまれだ。仲介業者が犠牲者に最高5000ドル(約55万円)程度の口止め料を払うからだ。

 身の安全のため匿名を条件にAFPの取材に応じた人身売買専門の主任検察官は、「犠牲者らは金銭を必要としている」「それに、こうした巨大で組織化された人身売買ネットワークにおびえてもいる」と語った。

■はるかなる故郷

 ナリーさんの結婚生活が崩壊したのは、男児を出産してから1か月が経った時だった。義母が突然、彼女に授乳をやめさせ、赤ん坊を見ることも抱くことも禁止したのだ。

 夫の家族は離婚を強く要求した。ナリーさんは、中国でのビザが失効していたため、夫の家を出れば不法滞在になってしまうことが分かっていたが、最終的には家を出て、近くのガラス工場で低賃金の仕事をしながら数年を過ごした。

 だが在留資格が現状と異なることが発覚し、彼女は1年間、不法滞在者の収容施設に拘束された。そこには同じような経緯をたどってきたベトナム人やカンボジア人の女性が大勢いた。

 ナリーさんが収容施設を出ると、母親がカンボジアの慈善団体に連絡を取り、同団体の尽力によって彼女は今年8月に無事帰国できた。

 ナリーさんは今、衣料品工場で最低賃金の仕事をしている。悲惨な結婚生活からは解放されたが、自分の子どもとは離れ離れになってしまった。「あの子に会うことはもう二度とないでしょう」。彼女はそうつぶやいた。(c)AFP/Aidan JONES / Suy SE