■不動産価格の高騰

 1927年からこの場所にある薬局の経営者、フレデリク・ルー(Frederic Loup)さんは、家賃の高騰によって個人経営の店が立ち退かざるを得ない状況になっていると話す。地元に根差した店舗のうち、今でも営業を続けているのはルーさんの薬局だけだという。「パン屋が去り、肉屋も去った。問題なのは家賃だ。払うことができるのは、土産物屋だけだ」とルーさん。

 19世紀末には安宿が多く、貧しい芸術家たちに人気だったモンマルトルの町は、この30年間に不動産価格が高騰し、物件は今や富裕層や著名人らしか手が届かない。

 この地区が持つ独特の魅力が、米ハリウッド俳優のジョニー・デップ(Johnny Depp)といったスターたちをとりこにしている一方で、地元の人々は次々と町を離れている。

 30年前のアパルトマンの価格は、1平方メートル当たり1500ユーロ(約19万円)前後だったが、モンマルトル専門の不動産会社「イムモポリス(Immopolis)」のブリス・モイーズ(Brice Moyse)社長によると、今の購入希望者は1平方メートル当たり1万ユーロ、あるいは2万ユーロ(約130万~260万円)を出すこともいとわないという。

 このような物件価格では、まだ芽の出ない作家やアーティストらが、この町に移り住んでピカソやルノワールの足跡をたどりたいと思うことさえできないだろう。