【1月1日 AFP】ピカソ(Pablo Picasso)やモディリアニ(Amedeo Modigliani)といった巨匠画家が、その昔、無名時代に足繁く通った薄暗い穴倉のような部屋で、ロシアやカナダ、オーストラリアから来た旅行客の一行が古いシャンソンに耳を傾けている。

 市中心部の丘の上にある、パリを象徴する地区、モンマルトル(Montmartre)。アカシアの木に囲まれた小さな一軒家で、モンマルトルに残る最後のキャバレー「ラパン・アジル(Lapin Agile)」が今も営業を続けている。

 ここ数十年、この地区には大勢の観光客が押し寄せるようになり、街の様子も大きく変わった。店のオーナーのイブ・マテュー(Yves Mathieu)さんは、近所の石畳の舗道では「Paris」と書かれたマグカップやエッフェル塔(Eiffel Tower)のキーホルダーを売る土産物屋が急増し、歩く妨げになっていると不満を募らせている。

「伝統的なキャバレーは、うちだけになってしまった」「私は今、90歳だが、これからもやめるつもりはない」とマテューさんは話す。このキャバレーでは、レオ・フェレ(Leo Ferre)やジョルジュ・ブラッサンス(Georges Brassens)、シャルル・アズナブール(Charles Aznavour)といった多くのシャンソン歌手がデビューを飾った。

 だが、19世紀のアーティストらの憧れの町だったモンマルトルは近年、商業的規模の国際的な観光化の波に飲み込まれるリスクに直面している。モンマルトルを訪れる観光客の数は、年間約1200万人に上る。

 1921年に、都市開発に反対するために設立された「モンマルトル共和国(Republic of Montmartre)」と名乗る地域団体の代表、アラン・コカール(Alain Coquard)さんは、丘の頂にあるテルトル広場(Place du Tertre)が「ディズニーランド」のようになってしまうと不安を口にした。