【11月27日 AFP】1970年代にキプロスから盗み出されて行方不明になっていたビザンツ(Byzantine)時代のモザイク画がこのほど発見され、キプロス政府に返還された。発見したのは、数々の盗難美術品を取り戻した実績から「美術界のインディ・ジョーンズ(Indiana Jones)」の異名をとるオランダ人の美術調査員アルテュール・ブラント(Arthur Brand)氏。欧州を股に掛けたおよそ2年に及ぶ今回の大捜索で新たな手柄を立てた。モザイク画は、キプロスにある博物館に展示された。

 ブラント氏が無事回収したのは、6世紀にさかのぼる聖マルコのモザイク画。トルコ軍による1974年のキプロス侵攻後、北キプロスのリトランコミ(Lythrangomi)にあるパナギア・カナカリア(Panayia Kanakaria)聖堂の壁から、ほかのモザイク画や宗教遺物とともに切り取られ、行方が分からなくなっていた。

「これは非常に特別な作品です。初期ビザンツ時代の美術品としては最も古い部類に入るものだし、最も美しい作品の一つと言えるでしょう」。ブラント氏はキプロス大使館に作品を返還する直前にAFPの取材に応じ、誇らしげに語った。

 このビザンチン聖人像のことがずっと気になっていたというブラント氏は、キプロス正教会(Church of Cyprus)の協力も得ながら欧州各地でこの作品を捜し求めた。16日、ハーグ(The Hague)にあるキプロス大使館で開かれた内輪の式典で行った作品の引き渡しは、2年近くに及んだ今回の捜索劇のクライマックスを飾った。

■裏人脈も駆使

 ブラント氏はロンドンの著名な美術品商から情報を得て、今年8月にモナコへ向かった。

 裏社会の人物らも含む仲介者のつてをたどって、ブラント氏は最終的に作品がモナコのアパートにあることを突き止めた。「英国人の一家が40年以上前に善意で買い取り、所有していた」(同氏)のだという。

「一家はその絵がたいへん貴重な美術品で、トルコ軍の侵攻後にカナカリア聖堂から盗み出されたものだったということを知って、がく然としていました」(同氏)

 一家はモザイク画の修復・保存にかかる少額の経費だけ受け取る代わりに、作品を「キプロス国民」に返還することに応じたという。ブラント氏によると、回収したモザイク画は500万~1000万ユーロ(約6億4000万~12億9000万円)の価値があるという。

「私の人生で最高の瞬間の一つだった」。ブラント氏は今回の捜索の成功をかみしめていた。

 ブラント氏は2015年、ナチス・ドイツ(Nazi)時代にドイツ人の彫刻家ヨーゼフ・トーラク(Josef Thorak)が制作した「ヒトラーの馬」と呼ばれる巨大なブロンズ像2体を発見し、世界的に有名になった。さらに1年後には、ウクライナの犯罪組織から盗難品の傑作5点を取り戻し、再びニュースに取り上げられた。

 映像は21日撮影。(c)AFP/Jan HENNOP