■「囚人のジレンマ」で見えた効果

 被験者に与えた思考課題の一つは、いわゆるゲーム理論の一例の「囚人のジレンマ」だった。被験者は、未知の他者である別の被験者と協力するか、競争するかの選択を迫られる。

 両方の被験者が協力を選択した場合には、与えられる得点は2人で平等に分け合うことになる。もしも競争を選んだのが一方の被験者だけだった場合は、その被験者が全得点を獲得し、相手の得点はゼロになる。だが、競争を選ぶ際には、相手の被験者も競争を選んだ場合は2人とも得点がゼロになるというリスクがある。

 実験の結果、MDMAを摂取した被験者はプラセボを与えられた被験者に比べて、協力を選ぶ傾向が強くなることが分かった。

 だが予想外なことに、MDMAを摂取した被験者が協力的な行動を取ったのは、それまでに行った選択の観察結果に基づいて信頼できると判断した相手に対してだけだった。

 ロンドン大キングスカレッジ精神医学・心理学・神経科学研究所のミトゥル・メータ(Mitul Mehta)氏は、AFPの取材に「MDMAには、他者を信用しやすくなる作用があるのではと考えていたが、それは誤りだった」と語った。

「実際には、MDMAによって相手をどう思うかという部分には全く変化はなかったのに、相手に対する行動は変化した」

「これは、MDMAが楽観をもたらすために行動が変わるのではなく、実際はMDMAを摂取しても眼鏡は曇らず、信用できない人物は信用できないとみなすことに変わりはない」