■異なる思い

 この問題が繊細であることは、アヌチャー選手のコーチだったソムサック・ディールジジャルーン(Somsak Deerujijaroen)氏の言葉にもよく表れている。ソムサック氏が経営するムエタイジムでは、自身の息子もトレーニングを行っている。

 ソムサック氏は、「子どものムエタイの試合を法律で全面的に禁止すると、タイから強い選手が出なくなってしまう。そうなるとムエタイは終わりだ。外国人にチャンピオンの座を明け渡してしまうだろう」と参列したアヌチャー選手の葬儀で語り、子どもにヘッドギアの着用を義務付ける方が現実的かもしれないと付け加えた。

 だが、アヌチャー選手の死亡事故後、ソムサック氏の中には全く異なる思いが生じるようになった。そして今は、自責の念に駆られている。

 ひつぎにはアヌチャー選手が好きだったという黒と赤のムエタイパンツが掛けられていた。

 このひつぎの横に立ったソムサック氏は「これ以上、ムエタイジムを続けたくない」「私の8歳の子どももトレーニングを受けている。だが、もうトレーニングを受けさせたくない」とつぶやいた。(c)AFP/ Anusak KONGLANG and Sippachai KUNNUWONG