■「ロシアのもの」

 他方で、羅臼町の湊屋稔(Minoru Minatoya)町長は、草の根レベルでの交流は信頼関係の構築に役立つと指摘する。

 既にビザなし交流が行われており、元島民の中には故郷に戻り家族の墓参りをした人もいる。ロシアの人々もこのプログラムによって、日本を訪れている。

 まだ詳細の決定には至っていないが、日本とロシアは、漁業、農業、風力発電、観光などの分野で北方領土での経済活動を共同で進めることを検討している。

 ただ、湊屋氏は、経済協力が問題解決の最善の方法かということについて懐疑的だ。「信頼関係ができていない人に『こんな大きなプレゼントがあるよ、どうぞ受け取って下さい』と言われて素直に受け取れるのか」

 シンクタンク「カーネギー・モスクワセンター(Carnegie Moscow Center)」のアジア太平洋問題部門責任者アレクサンドル・ガブーエフ(Alexander Gabuev)氏は、経済プロジェクトによって、北方領土の日本への帰属を確認することは難しいと思われるとしながら、「クリル列島はロシアのものだというロシアの立場は変わらないだろう」と続けた。

 海岸で馬に乗ったこと、家族で木を切り倒し家まで馬そりで運んだこと、ストーブで暖めたれんがをタオルで包み布団の中で暖を取ったこと、骨身に染みる寒さのこと──問題が解消されるまで、長谷川さんの故郷の島は、思い出の中にだけ存在する。

 脇さんは現在、故郷の国後島から約25キロ離れた羅臼に住んでいる。ロシアがクナシルと呼ぶ国後島が、晴れた日には肉眼で見えるほどの距離だ。

 だが、脇さんは言う。「近くて遠いんです」 (c)AFP/ Miwa SUZUKI