■キャッシュレス化に対する怒り

 お金についての教育を推進するNPO「キャピタル・エリア・アセット・ビルダーズ(Capital Area Asset Builders)」のジョセフ・ライトマン・サンタ・クルーズ(Joseph Leitmann-Santa Cruz)さんは、次のように指摘する。「キャッシュレス化は、『低所得で銀行口座やクレジットカードを持っていない人は、うちのビジネスの客ではない』と言っているようなものだ」

 メリーランド州ボルティモア(Baltimore)近郊にあるビーガン(完全菜食主義者)レストラン、ランド・オブ・クッシュ(Land of Kush)は、一時期キャッシュレス化を試みたが、すぐにやめた。

 レストランのオーナーであるブラウンさんは、昨年に武装した強盗に押し入られたことをきっかけに店をキャッシュレスにしたが、その試みは1週間も続かなかった。

 ブラウンさんは、「ここはアフリカ系アメリカ人向けの店で客層もさまざま。中には、銀行口座を持っていない人もいる」と述べ、「キャッシュレス化に激怒した人も一定数いた。客の3分の1を失う余裕はうちの店にはない」と続けた。

■キャッシュレス化阻止は解決策にならない

 ワシントンでのキャッシュレス化をめぐり、市議会議員数人が6月、小売飲食業者に現金の受け付けを求める法案を提出した。

 だが、キャッシュレス化を止めることが解決策にはならないと、タイラー氏は指摘する。「私たちにできる最善策は、これまでの努力をさらに推し進め、人々に銀行口座を開いてもらうことだ」

 エンジェル氏も、モバイル決済など銀行口座を通さないキャッシュレス決済の選択肢を増やすことで、銀行口座を持たない人でもキャッシュレス化に対応できると説明し、中国やスウェーデンなど、他の国々では実現しているが、「米国はしり込みしたままだ」とコメントした。(c)AFP/ Sara KAMOUNI