【10月29日 AFP】27日のヘリコプター墜落事故で死去したサッカーイングランド・プレミアリーグ、レスター・シティ(Leicester City)のウィチャイ・シーワタナプラパー(Vichai Srivaddhanaprabha)会長は、レスターのプレミア制覇というサッカー史に残るおとぎ話の「作者」として、これからも人々の記憶に残り続ける。

 クラブは声明を発表し、「レスター・シティは、会長の下で家族になっていました。その家族として、われわれは会長の死を悼み、会長の遺産となったクラブのビジョンをこれからも追求してまいります」と述べている。

 会長の下で、目立たない中小クラブだったレスターは、並みいるプレミアの強豪を押しのけて2016年にリーグ優勝。その後は快挙の再現こそないものの、プレミア定着を果たしつつある。優勝などまったく縁がないと思われていた中でのタイトル獲得は、世界のスポーツシーンにレスターの名を刻むとともに、苦しいことばかりだったクラブのファンを喜ばせた。

 ポロが好きで、ファンに慕われる存在だった。タイの大富豪でありながら、親しみやすい人物として知られていて、レスターの本拠地キング・パワー・スタジアム(King Power Stadium)ではビールやドーナツを無料で振る舞うこともあった。

 1989年に興したキング・パワー(King Power)社をバンコクの一商店から数十億ドル規模の帝国に成長させ、近年のタイ政界の荒波を慎重に越えつつ勢力を拡大。そして2010年に当時2部でくすぶっていたレスターをおよそ4000万ポンド(当時約62億円)で買収すると、すぐにサポーターのハートをつかんだ。

 業(カルマ)という考え方を固く信じる熱心な仏教徒でもあり、選手たちに幸運を授けようとタイから僧侶を呼び寄せてピッチを祝福してもらったこともあった。選手補強や赤字補填、インフラ確立に資金を投じたが、その使い方は分別のあるものだった。

 人気の一方で取材に応じることはめったになく、メディア対応は「トップ」こと息子のアイヤワット(Aiyawatt Srivaddhanaprabha)氏にほぼ任せていた。「トップ」氏はプレミア優勝後、父親について「成功を収めた実業家で、自分を追い込みながら何かを成し遂げる人です。確か2年か3年前にチームをプレミアでの成功に導きたいと言っていて、そして今、われわれはそれを実現した」と語っていた。

 著名人との付き合いもあり、「革新的な栄華の光」を意味するという「シーワタナプラパー」という名字は、2016年に死去したプミポン・アドゥンヤデート(Bhumibol Adulyadej)前国王から賜ったものだった。

 会長は、所有するヘリコプターをピッチのセンターサークルによく下ろしていた。27日も、ヘリは試合後にその場所から飛び立ち、スタジアム近くの駐車場に墜落した。(c)AFP